お姉さんシリーズ 沢北くん編
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山王が表紙の週バスを手にしたあの日から更に季節が過ぎて、日差しの照りつく夏本番の頃。職場で手に取った新聞には、先日のインターハイ男子バスケの勝敗結果が小さく記されていた。
……山王は、敗けていた。そんな事実に私が軽く衝撃を受けていたその日の夜、珍しく私の家に電話がかかってきた。
「もしもし名前ちゃん。元気してるかい?」
その電話の主は栄治くんのお父さん、テツさんだった。
「テツさんですか!お久しぶりですね。」
「いやあ、急に悪いね名前ちゃん。実は、エイジが来月からアメリカ留学に行くんだけどさ、」
「わあ……。栄治くん、ついにアメリカですか。」
「そうなんだよ。それで、成田から出発するから、良かったら名前ちゃんが見送りに来てくれたらアイツが喜ぶと思って連絡したんだ。
アイツ、相変わらず名前ちゃんのこと大好きだからさ。」
「栄治くん……。わかりました。テツさん、ご連絡ありがとうございます。」
そんな突然のテツさんからの電話を受けた私は、栄治くんがアメリカ留学へ行くというニュースに驚くと共に納得をした。
そして心の中で『アイツ、相変わらず名前ちゃんのこと大好きだから』という部分を反芻してしまった。
これは、私が高校三年生の頃の話である。
私が高校を卒業したら大学進学のために家を出ると知った時、幼稚園児の頃から数年間私に懐いてくれていた栄治くんはひどく泣きじゃくった。
「やだやだやだ!ねえちゃんのバカ!行かないで!!」
「もう栄治っ、名前ちゃんを困らせるんじゃないの!」
栄治くんと初めて出会った時から5年ほどの月日が経っていたけれど、それでもまだまだ小さくて泣き虫な栄治くんは、私との別れが受け入れられなかった。
「だってやなんだもん!ねえちゃんが俺から離れるなんてやだー!!ねえちゃんは絶対俺と結婚するんだもん!!」
その上、いつのまにか栄治くんの中では私は将来のお嫁さん候補にまでなっていたらしい。
そうは言っていても、幼い栄治くんは成長するうちにそんな気持ちもすぐに変わることだろう。そう思った私は、栄治くんを宥めるためにとある約束をした。
「わかったわかった。そんなに泣かないで、栄治くん。
じゃあ、栄治くんが大人になってもまだ私のこと好きだったら、その時は結婚しようね。」
「……っ!ホントに?ぜったい、約束だからな!」
私はしゃがんで微笑みながらポンポンと栄治くんの頭を撫で、私の言葉を聞いた栄治くんは潤む瞳で私の顔を見つめた。
私が家を出る当日の朝になると、栄治くんは一人で私の家を訪れてきた。
栄治くんのくりくりとした大きな瞳に、涙は浮かんではいなかった。
「ねえちゃん……がんばれよ。」
「栄治くん、これ、私のために……!?」
栄治くんは目を逸らして寂しげな顔でそっと私に何かを差し出した。
栄治くんが私にくれたのは、この地元付近にある一番大きな神社のお守りだった。
その神社の独自のかわいいデザインで、小さな鈴が可憐にチリチリと鳴る、大切に持つ人の願い事が叶うと言われているものだった。
栄治くんの瞳にはもう涙はないのに。そのお守りを手にしたら、大人気ないことに、私の方が瞳に涙を浮かばせてしまっていた。
「ありがとう、栄治くん!」
もちろん、こんなに懐いてくれるかわいい栄治くんと離れるのは私だって寂しくて仕方がなかった。
堪えきれずに涙を零してしまった私は、最後に栄治くんのまだまだ小さな身体をふわりと抱きしめたのだった。
こうして家を出てから、年に2回ほど実家に帰省して栄治くんと会う度に私は、「俺はまだねえちゃんのこと好きだからな!」と言われ続けていた。
当然ながら顔を合わせる度に栄治くんの身体は大きくなっていて、栄治くんが中学生の頃に背は追いつかれてしまっていた。
中学からバスケ部に入った栄治くんは、本人は歯ごたえがなくて退屈、なんの面白みもないと言いながらも、もちろんのこと才能を活かして活躍していたようで、沢北さんのお家には帰省する度に表彰盾やカップが増えていた。
そして大学も出て私が都会で就職して2年目、栄治くんの中学最後の年の冬。
栄治くんの私への告白はもはや毎年恒例となっていた。
私はいつもそれを「はいはい、もっと大人になったらね。」と言って軽く受け流していたけれど、そろそろ高校生にもなるのにいつまでもそんな事を言っている栄治くんが心配になり、その時ばかりはやんわりと釘を刺すことにした。
「ねえちゃん、俺はまだねえちゃんのこと好きだからな。」
「もう、栄治くん……。いつまでそんなこと言ってるのさ。」
「だってアンタが大人になっても好きでい続けたら結婚するって言ったんじゃねぇか。
だから、大人になるまで言うつもりだっての。
……で?アンタの言う大人っていつなんだよ?俺もそろそろ高校入るんだけど。しかもあの山王だぞ。」
いつものようにサラッと受け流さずに呆れたように返した私に対して、栄治くんはムッとした表情でそんなことを聞いた。
「高校生なんてまだまだ子供でしょう……。
一体いつまで意地になってるの。まさか、泣き止ませるために言ったことをここまで引っ張られるなんてこっちも思わないでしょうが。」
「……はぁ!?」
私が滅多にしない冷たい表情で突き放すような言い方をすると、栄治くんの端正な顔は、酷く心が傷ついた表情へと変わった。
「だったら、アンタはなんで……いつまでもこんなモン付けてんだよ!
……余計な期待なんか、させてんじゃねえよ!」
「……!!」
栄治くんは怒りながらチリン、と鈴の音の鳴る物体を私に投げつけ、涙を堪えた表情で私の部屋から去っていった。
……栄治くんが私に投げつけたのは、私が家を出る日にあの子がくれたお守りだった。
私はそれを貰った時からずっと、肌身離さず自分の鞄に着けていた。
栄治くんはそれを見て、いつの間にか引っ剥がしていたのだろう。
『ねえちゃん!』
私は栄治くんのことを異性としては見ていないけれど、辛い時にはつい昔のあの子のキラキラとした笑顔を思い出してしまうような、心の支えになっている大事な存在には変わりなかった。
……そんな私の独りよがりな気持ちは、栄治くんの純粋な心を踏みにじってしまっていた。
その後、高校生になった栄治くんは山王での厳しい寮生活を送り、帰省もしていない。
私が栄治くんを傷つけてしまってから、顔を合わせることが無かったのだ。
【次回へ続く】
……山王は、敗けていた。そんな事実に私が軽く衝撃を受けていたその日の夜、珍しく私の家に電話がかかってきた。
「もしもし名前ちゃん。元気してるかい?」
その電話の主は栄治くんのお父さん、テツさんだった。
「テツさんですか!お久しぶりですね。」
「いやあ、急に悪いね名前ちゃん。実は、エイジが来月からアメリカ留学に行くんだけどさ、」
「わあ……。栄治くん、ついにアメリカですか。」
「そうなんだよ。それで、成田から出発するから、良かったら名前ちゃんが見送りに来てくれたらアイツが喜ぶと思って連絡したんだ。
アイツ、相変わらず名前ちゃんのこと大好きだからさ。」
「栄治くん……。わかりました。テツさん、ご連絡ありがとうございます。」
そんな突然のテツさんからの電話を受けた私は、栄治くんがアメリカ留学へ行くというニュースに驚くと共に納得をした。
そして心の中で『アイツ、相変わらず名前ちゃんのこと大好きだから』という部分を反芻してしまった。
これは、私が高校三年生の頃の話である。
私が高校を卒業したら大学進学のために家を出ると知った時、幼稚園児の頃から数年間私に懐いてくれていた栄治くんはひどく泣きじゃくった。
「やだやだやだ!ねえちゃんのバカ!行かないで!!」
「もう栄治っ、名前ちゃんを困らせるんじゃないの!」
栄治くんと初めて出会った時から5年ほどの月日が経っていたけれど、それでもまだまだ小さくて泣き虫な栄治くんは、私との別れが受け入れられなかった。
「だってやなんだもん!ねえちゃんが俺から離れるなんてやだー!!ねえちゃんは絶対俺と結婚するんだもん!!」
その上、いつのまにか栄治くんの中では私は将来のお嫁さん候補にまでなっていたらしい。
そうは言っていても、幼い栄治くんは成長するうちにそんな気持ちもすぐに変わることだろう。そう思った私は、栄治くんを宥めるためにとある約束をした。
「わかったわかった。そんなに泣かないで、栄治くん。
じゃあ、栄治くんが大人になってもまだ私のこと好きだったら、その時は結婚しようね。」
「……っ!ホントに?ぜったい、約束だからな!」
私はしゃがんで微笑みながらポンポンと栄治くんの頭を撫で、私の言葉を聞いた栄治くんは潤む瞳で私の顔を見つめた。
私が家を出る当日の朝になると、栄治くんは一人で私の家を訪れてきた。
栄治くんのくりくりとした大きな瞳に、涙は浮かんではいなかった。
「ねえちゃん……がんばれよ。」
「栄治くん、これ、私のために……!?」
栄治くんは目を逸らして寂しげな顔でそっと私に何かを差し出した。
栄治くんが私にくれたのは、この地元付近にある一番大きな神社のお守りだった。
その神社の独自のかわいいデザインで、小さな鈴が可憐にチリチリと鳴る、大切に持つ人の願い事が叶うと言われているものだった。
栄治くんの瞳にはもう涙はないのに。そのお守りを手にしたら、大人気ないことに、私の方が瞳に涙を浮かばせてしまっていた。
「ありがとう、栄治くん!」
もちろん、こんなに懐いてくれるかわいい栄治くんと離れるのは私だって寂しくて仕方がなかった。
堪えきれずに涙を零してしまった私は、最後に栄治くんのまだまだ小さな身体をふわりと抱きしめたのだった。
こうして家を出てから、年に2回ほど実家に帰省して栄治くんと会う度に私は、「俺はまだねえちゃんのこと好きだからな!」と言われ続けていた。
当然ながら顔を合わせる度に栄治くんの身体は大きくなっていて、栄治くんが中学生の頃に背は追いつかれてしまっていた。
中学からバスケ部に入った栄治くんは、本人は歯ごたえがなくて退屈、なんの面白みもないと言いながらも、もちろんのこと才能を活かして活躍していたようで、沢北さんのお家には帰省する度に表彰盾やカップが増えていた。
そして大学も出て私が都会で就職して2年目、栄治くんの中学最後の年の冬。
栄治くんの私への告白はもはや毎年恒例となっていた。
私はいつもそれを「はいはい、もっと大人になったらね。」と言って軽く受け流していたけれど、そろそろ高校生にもなるのにいつまでもそんな事を言っている栄治くんが心配になり、その時ばかりはやんわりと釘を刺すことにした。
「ねえちゃん、俺はまだねえちゃんのこと好きだからな。」
「もう、栄治くん……。いつまでそんなこと言ってるのさ。」
「だってアンタが大人になっても好きでい続けたら結婚するって言ったんじゃねぇか。
だから、大人になるまで言うつもりだっての。
……で?アンタの言う大人っていつなんだよ?俺もそろそろ高校入るんだけど。しかもあの山王だぞ。」
いつものようにサラッと受け流さずに呆れたように返した私に対して、栄治くんはムッとした表情でそんなことを聞いた。
「高校生なんてまだまだ子供でしょう……。
一体いつまで意地になってるの。まさか、泣き止ませるために言ったことをここまで引っ張られるなんてこっちも思わないでしょうが。」
「……はぁ!?」
私が滅多にしない冷たい表情で突き放すような言い方をすると、栄治くんの端正な顔は、酷く心が傷ついた表情へと変わった。
「だったら、アンタはなんで……いつまでもこんなモン付けてんだよ!
……余計な期待なんか、させてんじゃねえよ!」
「……!!」
栄治くんは怒りながらチリン、と鈴の音の鳴る物体を私に投げつけ、涙を堪えた表情で私の部屋から去っていった。
……栄治くんが私に投げつけたのは、私が家を出る日にあの子がくれたお守りだった。
私はそれを貰った時からずっと、肌身離さず自分の鞄に着けていた。
栄治くんはそれを見て、いつの間にか引っ剥がしていたのだろう。
『ねえちゃん!』
私は栄治くんのことを異性としては見ていないけれど、辛い時にはつい昔のあの子のキラキラとした笑顔を思い出してしまうような、心の支えになっている大事な存在には変わりなかった。
……そんな私の独りよがりな気持ちは、栄治くんの純粋な心を踏みにじってしまっていた。
その後、高校生になった栄治くんは山王での厳しい寮生活を送り、帰省もしていない。
私が栄治くんを傷つけてしまってから、顔を合わせることが無かったのだ。
【次回へ続く】