お姉さんシリーズ 沢北くん編
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(あ、栄治くんだ。)
平日の仕事帰り。たまたま寄った本屋で見かけた週バスは、どうやら今年の冬の大会で優勝したらしい山王工業高校が表紙を飾っていた。
私はその表紙の中にいる沢北栄治くんの姿を見つけると、思わず感慨深い気持ちになった。
絶対王者と評される山王の中でも、1年生にして既にエースに君臨するズバ抜けた逸材の栄治くんは、私にとっては思い出のある少年だったのだ。
それは私が中学に入ったばかりの頃だった。私の実家の近所に、バスケットゴールが立つ立派なお庭つきの家を建てた沢北さん一家が引っ越してきたのだ。
「名字さん、これからお世話になります。沢北です。こっちは息子の栄治です。」
「ねえねえ、おねえちゃん。おれと遊ぼうよ!」
栄治くんと初めて会った時、あの子はキラキラとした満面の笑顔を私に向けて、自分のお家の大きなお庭へと誘ってくれた。
庭へと着くと、栄治くんはその小さな身体にはまだ不釣り合いなバスケットボールを両手で掴んで、笑顔でトコトコと走って来る姿がなんとも可愛らしかった。
「ねえちゃんはバスケできる?」
「うーん、ちょっとだけかな。」
私は運動音痴だし、バスケは授業で少しやったくらいだったけれど、小さな栄治くんと遊ぶなら、きっとお遊戯程度で大丈夫だろう。
そんな私の甘い見積もりは、幼くして既に才能の片鱗を見せていた栄治くんによって、けちょんけちょんにされたのだった。
「なんだよー、ねえちゃん下手っぴすぎ。ぜんぜん相手になんねえじゃん。おれより年上のくせに弱っちー。」
「私が弱いんじゃなくてきみがおかしいんだよ?ぼっちゃん……。」
かわいい顔をしているけれどなんて生意気な子どもなの……と、私はわなわなと沸き立つ怒りを必死に抑えた。
相手はやんちゃざかりな小さい子どもだ。生意気なのは仕方ないじゃないか。
そんなバスケが下手っぴな私でも、栄治くんは私のことが気に入ってくれたようで、私を見かけると「ねえちゃん!」と呼んでは抱きついてきた。
「栄治くん、テツさんとママさんと一緒に食べてね。」
「ねえちゃんありがとう!おれ、ねえちゃんのクッキー大好き!」
「ふふ、今日はテツさんに勝てるといいね~。がんばってね。」
「もう名前ちゃんったら……栄治をあんまり甘やかしちゃダメよ?」
一人っ子で昔は弟か妹が欲しいと思っていた私は、ねえちゃんと呼んで懐いてくれる栄治くんがとにかく可愛くて、抱きついてきた栄治くんをぎゅっと抱きしめて頭を撫で回したり、栄治くんのためにしょっちゅうお菓子を作っては沢北さんのお家に持っていったりした。バスケットボールの型抜きでデコレーションしたクッキーを持っていくと、栄治くんは大きな目を輝かせてくれた。
周りからも少し呆れられるくらいに溺愛していたのである。
そんな風に、私と栄治くんが出会ってから、私が高校を卒業して都会の大学に行くまで、ほぼ毎日のように栄治くんは「ねえちゃん!」と言って笑いかけてくれた。
無邪気でかわいい栄治くんのキラキラとした笑顔は、とっくに大人になった今でも、思春期の頃の大切な思い出として、私の心の支えとなっているのだ。
そんな子供だった栄治くんも、昔から夢中になっていたバスケで今では日本一の高校生と言われるようになった。
あの栄治くんが、本当に立派になったなあ……。そう思いながら、私は山王が表紙の週バスを手に取り、レジへと向かうのだった。
【次回に続く】
平日の仕事帰り。たまたま寄った本屋で見かけた週バスは、どうやら今年の冬の大会で優勝したらしい山王工業高校が表紙を飾っていた。
私はその表紙の中にいる沢北栄治くんの姿を見つけると、思わず感慨深い気持ちになった。
絶対王者と評される山王の中でも、1年生にして既にエースに君臨するズバ抜けた逸材の栄治くんは、私にとっては思い出のある少年だったのだ。
それは私が中学に入ったばかりの頃だった。私の実家の近所に、バスケットゴールが立つ立派なお庭つきの家を建てた沢北さん一家が引っ越してきたのだ。
「名字さん、これからお世話になります。沢北です。こっちは息子の栄治です。」
「ねえねえ、おねえちゃん。おれと遊ぼうよ!」
栄治くんと初めて会った時、あの子はキラキラとした満面の笑顔を私に向けて、自分のお家の大きなお庭へと誘ってくれた。
庭へと着くと、栄治くんはその小さな身体にはまだ不釣り合いなバスケットボールを両手で掴んで、笑顔でトコトコと走って来る姿がなんとも可愛らしかった。
「ねえちゃんはバスケできる?」
「うーん、ちょっとだけかな。」
私は運動音痴だし、バスケは授業で少しやったくらいだったけれど、小さな栄治くんと遊ぶなら、きっとお遊戯程度で大丈夫だろう。
そんな私の甘い見積もりは、幼くして既に才能の片鱗を見せていた栄治くんによって、けちょんけちょんにされたのだった。
「なんだよー、ねえちゃん下手っぴすぎ。ぜんぜん相手になんねえじゃん。おれより年上のくせに弱っちー。」
「私が弱いんじゃなくてきみがおかしいんだよ?ぼっちゃん……。」
かわいい顔をしているけれどなんて生意気な子どもなの……と、私はわなわなと沸き立つ怒りを必死に抑えた。
相手はやんちゃざかりな小さい子どもだ。生意気なのは仕方ないじゃないか。
そんなバスケが下手っぴな私でも、栄治くんは私のことが気に入ってくれたようで、私を見かけると「ねえちゃん!」と呼んでは抱きついてきた。
「栄治くん、テツさんとママさんと一緒に食べてね。」
「ねえちゃんありがとう!おれ、ねえちゃんのクッキー大好き!」
「ふふ、今日はテツさんに勝てるといいね~。がんばってね。」
「もう名前ちゃんったら……栄治をあんまり甘やかしちゃダメよ?」
一人っ子で昔は弟か妹が欲しいと思っていた私は、ねえちゃんと呼んで懐いてくれる栄治くんがとにかく可愛くて、抱きついてきた栄治くんをぎゅっと抱きしめて頭を撫で回したり、栄治くんのためにしょっちゅうお菓子を作っては沢北さんのお家に持っていったりした。バスケットボールの型抜きでデコレーションしたクッキーを持っていくと、栄治くんは大きな目を輝かせてくれた。
周りからも少し呆れられるくらいに溺愛していたのである。
そんな風に、私と栄治くんが出会ってから、私が高校を卒業して都会の大学に行くまで、ほぼ毎日のように栄治くんは「ねえちゃん!」と言って笑いかけてくれた。
無邪気でかわいい栄治くんのキラキラとした笑顔は、とっくに大人になった今でも、思春期の頃の大切な思い出として、私の心の支えとなっているのだ。
そんな子供だった栄治くんも、昔から夢中になっていたバスケで今では日本一の高校生と言われるようになった。
あの栄治くんが、本当に立派になったなあ……。そう思いながら、私は山王が表紙の週バスを手に取り、レジへと向かうのだった。
【次回に続く】
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