蘭ぐだ♀がイチャイチャしてるだけの話
「マスター……」
蘭陵王が耳元で囁き、ゾワゾワと甘やかなくすぐったさを感じる。
「み、耳はダメ……」
「ふふ、耳が弱いのですね」
蘭陵王は立香を腕の中に閉じ込めたまま、尚も耳を囁き声でくすぐる。
「耳にキスしても宜しいですか?」
「だ、ダメだよ!?」
「は……お可愛らしい……」
「蘭陵王、酔ってる?」
そのわりには酒気のようなものは感じない。
ちゅ、と耳に柔らかく湿ったものが触れる感覚がして、「ふわっ!?」と立香の肩が跳ねる。
「ふふ、我慢できずにしてしまいました」
蘭陵王の声は甘い響きを含んでいた。
「ら、蘭陵王……!」
「どうかしましたか、マスター?」
どうかしてるのはどう考えても蘭陵王のほうだと思うが、「い、いや、なんでも……」と、立香は困惑したまま答える。
「本当にそうでしょうか?」
「私は大丈夫だけど……」
「大丈夫というわりには顔が赤いようですが……?」
するりと頬を撫でられ、ぞわりと心臓が粟立つ感覚がする。それが存外嫌な感覚でもないのが不思議だった。
「とても大丈夫には見えませんね」
ドクドクと鼓動が早まり、それに合わせて顔が熱くなっていく立香を見て、蘭陵王はくすっと笑う。彼の目の奥がトロンと蕩けているように見えて、やはり酔っているのだろうかと思う。
「ら、蘭陵王がそんな人だとは知らなかったよ」
蘭陵王をテーマにした物語を紐解けば、大抵彼は女性に淡白な人物像で描かれる。彼のエピソードのひとつに『二十人の美女を賜ったが、一人だけ選んで残りは辞退した』という逸話が残っているくらいだ。今目の前にいる、立香を戯れるように誘惑している人物と同一とは思えなかった。
「そうですね、私も驚いています。マスターとは魔力のパスで繋がっているせいでしょうか、なんだか特別な相手のように思えてしまって……」
は、と蘭陵王から漏れる吐息が熱い。蘭陵王との距離は鼻先が触れるほど近い。
「マスター……」
蘭陵王が立香を呼びながら額に口付けする。そのまま寝台に押し倒されたものだから、立香は「待っ!?」とぎょっと目を剥いた。
「おっ、落ち着いて蘭陵王!? ……蘭陵王?」
仰向けになった立香に覆いかぶさった蘭陵王が、そのまま体重を預けて沈黙したのを、立香は疑問符を浮かべて身体を起こす。蘭陵王は眠っているようだった。
「……とりあえず寝かせておこう」
立香は蘭陵王を起こさないようにそっと自分の寝台に寝かせる。彼の体重が比較的軽いのが幸いであった。
「……鬼一師匠。蘭陵王にお酒でも飲ませた?」
「いんや? ただの水だよ。ちょっと魔力は混入させたけど」
立香は半日かけて犯人探しを行い、やっとのことで鬼一法眼にたどり着いた。鬼一は悪びれもせず、すんなり白状する。
「あの蘭陵王とかいう御仁はいろいろ溜め込んでしまいそうなタチだったからなあ。ときどき吐き出させたほうがいいぞ」
かんらからから、と笑って、鬼一は立香の頭を撫でる。酒のように蘭陵王の本性を暴く水であったなら、あれが蘭陵王の秘めていた心なのか、と思うと、立香はまた顔が熱くなる心地がした。
〈了〉
蘭陵王が耳元で囁き、ゾワゾワと甘やかなくすぐったさを感じる。
「み、耳はダメ……」
「ふふ、耳が弱いのですね」
蘭陵王は立香を腕の中に閉じ込めたまま、尚も耳を囁き声でくすぐる。
「耳にキスしても宜しいですか?」
「だ、ダメだよ!?」
「は……お可愛らしい……」
「蘭陵王、酔ってる?」
そのわりには酒気のようなものは感じない。
ちゅ、と耳に柔らかく湿ったものが触れる感覚がして、「ふわっ!?」と立香の肩が跳ねる。
「ふふ、我慢できずにしてしまいました」
蘭陵王の声は甘い響きを含んでいた。
「ら、蘭陵王……!」
「どうかしましたか、マスター?」
どうかしてるのはどう考えても蘭陵王のほうだと思うが、「い、いや、なんでも……」と、立香は困惑したまま答える。
「本当にそうでしょうか?」
「私は大丈夫だけど……」
「大丈夫というわりには顔が赤いようですが……?」
するりと頬を撫でられ、ぞわりと心臓が粟立つ感覚がする。それが存外嫌な感覚でもないのが不思議だった。
「とても大丈夫には見えませんね」
ドクドクと鼓動が早まり、それに合わせて顔が熱くなっていく立香を見て、蘭陵王はくすっと笑う。彼の目の奥がトロンと蕩けているように見えて、やはり酔っているのだろうかと思う。
「ら、蘭陵王がそんな人だとは知らなかったよ」
蘭陵王をテーマにした物語を紐解けば、大抵彼は女性に淡白な人物像で描かれる。彼のエピソードのひとつに『二十人の美女を賜ったが、一人だけ選んで残りは辞退した』という逸話が残っているくらいだ。今目の前にいる、立香を戯れるように誘惑している人物と同一とは思えなかった。
「そうですね、私も驚いています。マスターとは魔力のパスで繋がっているせいでしょうか、なんだか特別な相手のように思えてしまって……」
は、と蘭陵王から漏れる吐息が熱い。蘭陵王との距離は鼻先が触れるほど近い。
「マスター……」
蘭陵王が立香を呼びながら額に口付けする。そのまま寝台に押し倒されたものだから、立香は「待っ!?」とぎょっと目を剥いた。
「おっ、落ち着いて蘭陵王!? ……蘭陵王?」
仰向けになった立香に覆いかぶさった蘭陵王が、そのまま体重を預けて沈黙したのを、立香は疑問符を浮かべて身体を起こす。蘭陵王は眠っているようだった。
「……とりあえず寝かせておこう」
立香は蘭陵王を起こさないようにそっと自分の寝台に寝かせる。彼の体重が比較的軽いのが幸いであった。
「……鬼一師匠。蘭陵王にお酒でも飲ませた?」
「いんや? ただの水だよ。ちょっと魔力は混入させたけど」
立香は半日かけて犯人探しを行い、やっとのことで鬼一法眼にたどり着いた。鬼一は悪びれもせず、すんなり白状する。
「あの蘭陵王とかいう御仁はいろいろ溜め込んでしまいそうなタチだったからなあ。ときどき吐き出させたほうがいいぞ」
かんらからから、と笑って、鬼一は立香の頭を撫でる。酒のように蘭陵王の本性を暴く水であったなら、あれが蘭陵王の秘めていた心なのか、と思うと、立香はまた顔が熱くなる心地がした。
〈了〉
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