何より求めてやまないもの

「蘭陵王、誕生日おめでとう」
 マスター・藤丸立香に呼ばれて彼女の部屋を訪れると、蘭陵王はそんな言葉をかけられた。
「おや、私の誕生日を覚えてくださっていたのですね。しかし、教えた記憶がないのですが」
「こっそり調べたんだ。旧暦のほうの誕生日だけど」
 立香は来月には新暦の誕生日も祝う気満々である。
 彼女がエミヤの指導のもと作ったというケーキを差し出す。
「バレンタインのチョコの要領で作ったから、味は保証できると思う」
「ありがとうございます。ご相伴に預かります」
 二人でケーキを食べながら、会話を続ける。
「蘭陵王は、なにかしてほしいこととか、欲しいプレゼントとかある?」
 立香はサプライズプレゼントも考えていたが、サプライズというものはたいてい上手くいかないという感覚があった。
 蘭陵王は静かに首を横に振る。
「ケーキをいただき、マスターと二人きり、こうして語らうことができるだけで、私はこれ以上のプレゼントはないと思います」
「これだけでいいの?」
「ええ。マスターが私の傍にいて、こうしてマスターとの時間を大切に過ごせる、それ以上に私の求めるものはございませぬ」
「そっか」
 立香は微笑みながら、蘭陵王の手に自分の手を重ねた。
「じゃあ、今日一日は、蘭陵王のために時間を使おうかな」
「よろしいのですか」
「うん。急に微小特異点でも発生しない限りはね」
「たとえ発生したとしても、この蘭陵王、マスターにお力添えいたします」
「頼りにしてるよ」
 結果的には、特異点は発生することなく、二人は穏やかで貴重な一日を過ごしたという。
〈了〉
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