傲慢だろうか

 ライダーとして召喚された私を見た。

 マスター・藤丸立香が簡易召喚でカルデアにいるサーヴァントを喚び出す、戦闘の間の短い時間であったが、たしかに自分と同じ姿で、しかし自分を「道具」「愚鈍な刃」と称する己自身を見た。

 その『私』は、高長恭を名乗っているらしい。
 蘭陵の地に封ぜられる前の私なのか、と思ったが、どうも『蘭陵王』という名前自体を忌避しているように思えた。何故かはなんとなくわかる。理解してしまう。
 なぜなら私とて、あの『高長恭』と同じ、生前の記憶を持ってここにいるのだから。

 暗君に仕えるために戦果をあげ続け、命を賭して戦場を駆け巡った私を、皇帝が疑心暗鬼になり毒杯を賜った。それが私の最期。

 それを二度と繰り返さないために、自らを道具と名乗り、マスターにただ、機械的に従う私。はたから見ると実に滑稽だ。おまけに、……おまけに、マキリ・ゾォルケンによって、本当に『道具』にされてしまうなど。

 ……本当に、我が身ながら愚かなほどに偽悪的で、不器用で。見ていてこちらが恥ずかしくなってくる。

 それでも、立香はそんな『高長恭』に真っ向から立ち向かい、蟲に操られた己の分身を、楽にしてくれた。

「笑ってください、これが私の醜い本性なのです」

 私は戦いが終わったあと、高長恭もマキリ・ゾォルケンも消滅したあと、立香に乾いた笑いを向けるしかなかった。

「私は生き残るために財貨を貪り、生き汚い悪であろうとしたのに、結局毒杯を呷ることになった。その性根の腐った部分をマスターに晒してしまったことが、お恥ずかしい」

「笑わないよ」

 立香は背筋を伸ばし、正面から私と向き合う。

「私だってカルデアにいるサーヴァントの生前の資料くらいは目を通してる。蘭陵王がそういった面を持っていたことも知ってる。私はそれを好ましく思っているよ」

「なぜ」

「蘭陵王って、自分の顔を気にしてるよね。たしかに作り物みたいにきれいだと思うけど、蘭陵王のそういう側面を知って、とても人間らしいと思ったから」

 そうして、この少女はニッコリと微笑むのだ。
 このようなマスターに恵まれることは、過酷な聖杯戦争においてはまさしく望外の喜びというものであろう。
 しかし、立香の目から、つぅと涙がこぼれる。

「蘭陵王……いや、高長恭か。あの人もきっと苦しんでた。蘭陵王と同じ顔の人がああやって酷い目に遭うのはつらいね」

 私はそっと、立香を腕の中におさめる。
 今の私は外套を身にまとっている。きっと、彼女の涙は隠れて見えない。……否、見せたくないのだ。それが私自身の意思だった。

「君のことだけは、絶対にあんな目に遭わせないから」

 彼女が救えなかった私。彼女が救いたかった私。
 私は、たまたまマスターに恵まれているだけ。
 それでも、この幸せをずっと享受していたいと思うのは、傲慢だろうか。
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