美貌の槍兵と模擬戦闘(蘭陵王&ディルムッド)

 ガキィン、キィン、と、金属同士がぶつかる音がする。
 シミュレーターの環境は、竹林のなかに開けた場所が設定されており、そこで二騎のサーヴァント同士が模擬戦闘を行っていた。
 一方は仮面で美貌を隠したセイバー、蘭陵王。
 他方は乙女たちをときめかせる魔性のほくろを持ったランサー、ディルムッド・オディナ。
 この二騎は、お互い呪いかと思えるほどの美貌を持ち、そのせいで生前たいへん苦労したことから、意気投合して食堂で食事をともにするほどの仲になっていた。
 その二騎の模擬戦闘は、トレーニングの一環としては少々本気すぎるほどの気迫があった。
 ディルムッドは二振りの槍を使いこなす。手数ではディルムッドのほうが有利だろう。
 しかし、蘭陵王はその二振りの槍を、手に持った剣とその鞘でいなしてしまう。
 金属同士がぶつかり、擦れ合い、火花を散らす。
 二騎はそれぞれの剣と槍をぶつけるために接近しては、後ろに飛び下がって距離を取る。サーヴァント同士の高速戦闘で、そんな行動を繰り返しても、勝負はなかなかつかない。
「本日はここまでにしましょうか」
 不意に、蘭陵王がディルムッドに声をかけた。
「そうだな。蘭陵王殿とはなかなか決着がつかないのが惜しいところだ」
 ディルムッドは、額の汗を拭いながら、爽やかな笑みを返した。
 蘭陵王も仮面を外し、タオルで汗を拭う。
 仮面を外して首を振ったときに飛び散る汗と揺れる横髪、その仮面の下から現れる美貌は、もはや芸術の域に達している。
 その後、二騎はシミュレーターで用意してもらった竹製のベンチに腰掛け、タオルで汗を拭い、ペットボトルの冷たいお茶を飲みながら、雑談に興じた。ふたりの美男子は、ただ談笑しているだけで画になる。
 それを竹林に隠れながら観察しているいくつかの影があった。
「こりゃあ、いい絵が描けそうな題材だなァ」
 そう言ったのは葛飾北斎――の娘、お栄。
「見ているだけで、書く気がもりもり湧いてきますね」
 種帳になにやらメモしながら目を爛々と輝かせているのは、紫式部。
「今度のサバフェスのネタにちょうどいいかもね。戦闘描写を描くの、結構大変なんだけど……」
 そうこぼしているのは、刑部姫。
 みな、「取材」という名目で、二騎のサーヴァントの戦闘を陰ながら見守っていたのである。
「サバフェスが俄然楽しみになってきた」
 その中にはマスター・立香も混ざっており、二騎が雑談する姿を「目の保養」と拝んでいたのであった。
〈了〉
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