仙女、すぐ爆発する……?(蘭陵王&虞美人)

「――そう。カルデアのお前は、私と、私たちと、敵対するのね」
 それは異聞帯での記憶。
 クリプター・芥ヒナコが、異聞帯での蘭陵王と共に、カルデアの蘭陵王と、カルデアのマスターに対峙する、そんな光景。
 カルデアの蘭陵王は、当時、自分を知っているかのような芥ヒナコに不思議な感情を抱いていた。自分も、彼女を知っている気がしていたのだ。クリプターなど、初対面のはずなのに。
 そして、異聞帯での自分が、芥ヒナコに従って、汎人類史に仇なすのも違和感を抱いていた。
 ――いや。かつて暗君に仕えて毒を呷った身だ。またそんな悪どいマスターに捕まったのかもしれない。
 そう思っていると、不意に異聞帯の自分が話しかけてくる。
「こちら側につく気はないか」と。
 カルデア側の自分はもちろん否定した。
「私はカルデアのマスターに忠義を誓った身。そちらも同じようにその女に忠義を誓ったのだろう。ならば、我々は敵対する定め」
「そうだな。しかし、『私』は果たして彼女に敵対できるのか?」
「どういう意味だ」
 異聞帯の自分と言い争いをしていると、不意にクリプターが口を開く。
「私の名前は芥ヒナコ。この意味がお前ならわかるでしょう?」
 芥ヒナコ。
 芥……雛子……雛芥子(ヒナゲシ)。
 雛芥子は別名を、
「それでもお前は、私に敵対するの?」
 ――虞美人草。
『芥ヒナコ』の変身を解いて、そこに現れたのは、かつて友人として語らい合った、不老不死として永遠をさすらう、仙女であった。



 遠くで爆発音がして、蘭陵王はハッと目覚めた。
「――夢……?」
 否、サーヴァントは夢を見ない。マスターと共有でもしない限りは。
 つまりは、異聞帯での記憶を、夢というカタチで再編集されたに過ぎない。
 蘭陵王はすっくと立ち上がると、廊下を早足で通った。
「あ、本当に来た」
 虞美人の部屋のドアを開けると、彼女は項羽と一緒にいた。
 部屋の中には爆発した痕跡もなく、原型をとどめている彼女も爆散した様子はない。
 ホッと胸をなでおろしたと同時に、新たな疑問が湧く。
「本当に来た、とは?」
「項羽様が未来演算をなさったのよ。もうすぐお前が来るって」
 項羽との逢引を邪魔された彼女にしては、さして不機嫌な状態でもなかった。
「というか、項羽様が未来を演算するまでもなく、爆発音がするたびに私の様子、見に来るでしょ、お前は」
「ええ。また爆発したのかな、と思いまして」
「そんなに爆発するイメージある、私!?」
 虞美人はカッと目を見開いて驚愕の表情を見せたが、「……いや……しょっちゅう爆発はしてるわね……主に後輩の命令で……」と少し大人しくなった。
「爆発音は我が妻ではなく、食堂からのようだ。おそらく調理失敗の音だろう。常々、我が妻を気にかけてくれること、感謝している」
「いえ……それでは失礼いたします。お邪魔して申し訳ない」
 項羽に深々と一礼して、蘭陵王は部屋を退出した。



 ――結局のところ。
 異聞帯では、彼女と戦った。
 異聞帯での自分と戦い、倒した。
 カルデアの蘭陵王は、異聞帯を切除して。
 彼女の切なる願いを、踏みにじってしまった。
 結果的に、彼女もカルデアの一員に加わり、再会できたことに感激はしたけれど。
「そのことに罪悪感を抱くというのなら、お門違いよ」
 虞美人は、同じくカルデアに召喚された項羽と再会して、満足だったから。
「お前も私も、異聞帯のお前も、自分にできるすべてを尽くして、あの結果だった。だから、もう悔いはない」
 もとより、彼女は愛しい男と一緒にいられればそれでよかった。だから、カルデアで再会できた今は、もう悔いはないのだという。
「まあ、あのいけ好かない後輩に顎でこき使われるのは癪だけどね」
「ふふ、そうですか」
「何よ、何がおかしいのよ」
「いえ、貴女はいつでも変わらないなと思いましてね」
 人間嫌いなくせに、後輩であるカルデアのマスターに、なんだかんだ手を貸してくれる彼女は、やはり面白いな、と思った。
〈了〉
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