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仮面の怪人と仮面の将(蘭陵王&ファントム)

 蘭陵王。あるいは高長恭。
 仮面で美貌を隠し戦った中国は北斉の武将。
 彼の美貌に、ある者は魅了され、ある者は嫉妬し、ある者は蛇蝎のごとく忌み嫌った。
 そんな己の美貌を、彼が「呪われし貌」と表現するのも無理はないのだろう。
 そして、英霊としてカルデアに召喚されても、彼に妬みを抱く者が存在していた。
 そんな蘭陵王に対する嫉妬を抱いた英霊に、とある別の英霊が囁き、唆した。
「このままでは、また愛する女を盗られてしまいますぞ?」
 その言葉は呪いとなって、英霊の精神を蝕み、嫉妬の化身へと変貌させてしまった。
「クリス……ティーヌ……」
 ――さて、このお話は、そんな『何者か』の陰謀がすべての始まりとなって起こった、とある騒動の話だ。

「失礼いたします。蘭陵王、参上いたしました。本日もお世話させていただきます」
 藤丸立香の部屋の扉を開け、蘭陵王は彼女のお世話係をするために挨拶をする。
 しかし、部屋の主はおらず、代わりに彼女のファーストサーヴァント――マシュ・キリエライトが困ったような顔で蘭陵王を見た。
「あ、蘭陵王さん。すみません、今、先輩はいないんです」
「おや、マシュ殿。マスターがいない、とは? おひとりでお部屋を出られた、と?」
「わからないんです。私がこの部屋に来たときには、既に先輩はいなくて……」
 マシュは困惑しているようだった。
 まあ、立香だってひとりで行動したいこともあるのかもしれない。ひとりで部屋を出て地下図書館や食堂や他の施設に行くことだってあるだろう。
 蘭陵王はそのまま部屋にとどまり、立香の帰りを待つことにした。
 しかし、待てど暮せど、彼女が帰ってくることはない。
 お昼時だし食堂にいるのではないか、と様子を見に行ったが、やはり彼女の姿はなかった。
 流石に何かがおかしい、と思い、マシュが立香に通信を試みる。
 通信は成功し、マスターは反応を返した。ひとまずは胸を撫で下ろす。
「先輩、今どちらにいらっしゃるんですか?」
『わからない……。カルデアの中にはいると思うんだけど、ここがどこかわからない……』
 立香の言葉に、マシュと蘭陵王は顔を見合わせた。
 ――なにか、良くないことが起こり始めている、という予感があった。
「マスター、蘭陵王です。なにか手がかりはありませんか? 身の回りに何でもいいので何かありませんか?」
『ええと……周りはなんか暗くて……あ、オルガンがある。パイプオルガン。――待って、このオルガンってもしかして――』
 立香がそう言った途端、ザザッとノイズが入り、通信が途絶してしまった。
「マスター? マスター!」
 蘭陵王が何度か呼びかけるが、もう通信が回復することはなかった。
「ダメですね、通信がなにかに妨害されているようです」
「しかし、オルガン……ですか。カルデアにそんなものがあるのですか?」
 しかも、パイプオルガンというとかなりの大きさだ。
 そんな目立つものがカルデアにあっただろうか。
 蘭陵王とマシュは首を傾げていた。
 そこへ、
「フォウ!」
「あ、フォウさん」
 フォウがトテトテと走ってくる。そういえば、部屋に入ったときから、この生き物はいなかった。いつもマシュやマスターの周りについて回っているのに。
「フォウフォ、フォウ!」
 フォウはこちらを振り向きながら、トテトテとどこかで歩いて行く。
 まるで「自分についてこい」と言っているようだった。
「蘭陵王さん、どうやらフォウさんは何かを知っていそうです」
 マシュの言葉に、蘭陵王はうなずき、共にフォウのあとをついていった。
「……行き止まりのようですが……」
 フォウの導きによって辿り着いた場所は、壁があるだけだ。
 蘭陵王はもしや、と壁を手で押す。
 壁はドンデン返しのように回転した。
「そ、そんな!? カルデアにこんな忍者屋敷のようなからくりがあるなんて聞いたことはありません!」
「では、何者かがカルデアに新しく作ったのでしょうな」
 蘭陵王は冷静に答える。
 とにかく、マスターが何らかの危機に陥っている可能性があるならば、躊躇している暇はない。
「行きましょう、マシュ殿」
 蘭陵王とマシュは、ドンデン返しの壁を通って、地下への階段を降りていった。
「こんなところに地下への階段があるなんて、初耳です……」
 マシュの言葉に、蘭陵王は同感だとうなずく。
 しかも、地下への階段にはご丁寧に松明で灯りまでついている。つまり、何者かがこの地下を利用していることになる。
「用心して進みましょう。どうも嫌な予感がする」
 その予感は的中していた。
 地下への階段を降りきると、そこには異界が広がっていた。
 人骨のようなものが床に散らばっており、その人骨を組み合わせて作ったようなパイプオルガンが、まず蘭陵王とマシュの視界に飛び込んだ。
「な……これは……」
「これは見覚えがあります。ファントム・オブ・ジ・オペラの宝具……!」
 ファントムが宝具を発動した際に現れる、人の身体のパーツを組み合わせて作られた、忌まわしくもおぞましい巨大なパイプオルガン。
 そのパイプオルガンの椅子に、かの怪人は座っていた。
 その傍らには、囚われて気を失っている立香も。
「先輩!」
「ファントム殿! これはどういうことか!」
 蘭陵王の問いかけに、ファントムはゆっくりと振り向く。
「来たか……ラウル……」
「ラウル……?」
 知らない名前を呼ばれて、蘭陵王は困惑した。
 ファントムの表情は、完全に理性を失っている顔だった。
「おお、おお……! 私の歌姫を、二度までも奪われてなるものか……! 立ち去るのだ、ラウル子爵! さもなくば、お前の命を奪ってでも……!」
 どうやら、蘭陵王を「ラウル子爵」という名の男と錯覚しているらしい。
「蘭陵王さん、ファントムさんの精神汚染がランクアップしているようです。私たちの言葉は、おそらく彼には届きません……!」
「そうですか……。致し方ありませんね」
 蘭陵王は武力行使に出るしかない、と判断した。剣を抜き、ファントムと対峙する。
「我が仮面にかけて――行くぞ!」
 しかし、蘭陵王が一歩踏み出す前に、ファントムはパイプオルガンの鍵盤を目一杯叩く。
 巨大な音とともに不可視の魔力ダメージが、蘭陵王に襲いかかった。
「ぐっ……!」
 蘭陵王はすんでのところで隠美の仮面を使い、攻撃を無力化する。
 これで無敵になれるのは、耐えられてあと一回。
 しかし、それだけあれば彼には充分だった。
 蘭陵王はパイプオルガンに向けて跳び上がり、音の攻撃に立ち向かいながら回転斬りでオルガンを破壊する。
 人の骨をつなぎ合わせて作られたオルガンは、バラバラに砕け散った。
「ぬっ……!」
 ファントムは手袋を脱ぎ捨てる。鋭利な鉤爪が顕になった。どうやら、直接対決に持ち込めたらしい。
 蘭陵王とファントムの斬撃のぶつけ合いが、キィン、キィンと響き合う。
 蘭陵王は剣一本、対してファントムの鉤爪は両手の指合わせて十本。それを剣と剣の鞘だけでいなして戦えるあたりが流石は北斉の守護神と呼ばれた武将である。
 ファントムは蘭陵王と違い、もともと生前から戦闘に特化した英霊ではない。暗殺の心得はあれど、直接対決には向いていなかったのだ。それが彼の敗因であったのだろう。仮面の怪人は徐々に仮面の武将に押されていく。
「申し訳ありませんが、貴方を消滅させるわけにはいかない。戦闘不能の状態にして無力化します」
 蘭陵王の剣が一閃し、ファントムの鉤爪十本の切っ先を斬り折った。
「ぐぅぅ……!」
 ファントムは爪を折られ、床に膝をつく。
「何故だ……何故、何故、何故! 何故クリスティーヌなのだ! 何故貴様はクリスティーヌを私から奪うのだ、ラウル!」
「……」
 怒り狂う怪人の言葉に、武将は困ったような顔をする。
「貴様のような美しい人間は、女など引く手あまたであろうに、何故よりにもよってクリスティーヌなのだ! 私のものだ、歌姫は私のものだ!」
「ファントム殿……」
「何故、貴様は美しい顔を仮面で隠しているのだ。美醜の基準が存在しない世界を聖杯に願うなど、それはただの傲慢だ、私に対する侮辱だ! 許せない、許せない、妬ましい、恨めしい……!」
 どうもファントムは精神汚染のランクが徐々に下がってきているらしい。ラウル子爵と錯覚していた蘭陵王を、しっかり蘭陵王として認識している。そのうえで、蘭陵王を非難している。そんな怪人を、武将は見下ろしていた。
「……言いたいことは、よくわかりました。たしかに、貴方にとっては傲慢なのでしょう。しかし、仮面をつけていなければ外にも出られない者の苦しみは、貴方にもわかるはず」
 蘭陵王はあくまでも静かな口調だった。
 一方、蘭陵王とファントムが戦闘している間に、マシュは立香に駆け寄り、保護が完了していた。
「先輩、大丈夫ですか?」
「ん……マシュ……? 来てくれたんだね」
「はい、フォウさんのおかげです」
「そっか、お手柄だね」
「フォウ!」
 フォウは得意げに胸を張っている。
「マスター、ご無事で何よりです」
「蘭陵王!」
 立香は蘭陵王に笑顔を向ける。
「よかった、君がファントムを止めてくれたんだね」
「はい。しかし、この空間は何なのですか? ファントム殿にこんな異界を作れるような能力や魔力があるとは聞いたことがありません」
 蘭陵王の言葉に、マシュは「たしかに、なにか妙ですね……」と今気づいたような顔をする。
「うん、多分だけど、ファントムを唆して、私を攫わせた黒幕が別にいる。そいつが、この空間を作ったんだ」
「それは――」
 立香の言葉に蘭陵王が息を呑むと、不意に「ンン――」と声がした。
「ファントム殿はしくじりましたか。せっかく愛しの歌姫と逢い引きできる空間をご用意したのですが、まさか小さな獣が紛れ込んでいたとは、この道満も焼きが回ったものですなァ」
「蘆屋――道満、さん」
 マシュはなんとなく予想はついてたな、という顔をしていた。
 蘭陵王も立香も、おそらくは読者も、想像はついていたに違いない。
「ンン? もっと驚いてほしかったのですが?」
 道満は首を傾げていた。
「つまり、あとは貴方にお灸を据えれば、この事件は解決、というわけですね」
 蘭陵王は剣を構えて、道満に立ち向かう姿勢を見せる。
「左様ですな。しかし、そう簡単に倒せるとは思わないことですなァ。なにせ拙僧、ガッツを二回残しているもので」
 こうして、蘭陵王と蘆屋道満の対決が始まり――



「それで、お話は結局どうなったのかしら?」
 ナーサリー・ライムが小首をかしげる。
「それはもう、壮絶な戦いの果てに、蘭陵王が辛くも勝利したよ。みんなにも見せたかったな、無限に『蘭陵王入陣曲』をして道満のチャージを減らし続け、ダメージカットで道満の攻撃が通らなくなった蘭陵王の勇姿を」
 立香がナーサリーたちのお茶会でそんな話をしている横で、執事のごとく紅茶を淹れる蘭陵王とファントム。
 そして、カルデアの廊下には、「私はカルデアに勝手に異界を作りました」と書かれた看板を首から下げて正座している道満の姿があったという。
〈了〉
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