Tuning the world

「そうして織姫と彦星は年に一度だけの再会を許され、二人は懸命に働くようになった。……これがシャルファに伝わる物語だ」
「……初めて聞いたけど、面白い話があるのね」

 旅の最中の野営にて。見張り番のエレシアとシリウスは、宝石箱をひっくり返したような満天の星空を眺めていた。退屈しのぎにとシリウスが語った物語を踏まえて見る星空は、エレシアの目にはよりいっそう美しく輝いて見える。あの遠い星空の向こうで、今頃愛し合う二人が再会を喜んでいるのかもしれない。一年にたった一度の二人の逢瀬に想いを馳せる。

「そして、二人が再会する日には短冊に願い事を書き、笹に飾る。そうすれば二人が願いを叶えてくれる、とな」
「願い事……」
「ああ。家族の安寧、未来への希望、あるいは俗な欲望まで……ただの願掛けに過ぎぬがな。故郷の友はかつてどんな酒にも負けぬ身体が欲しいなどと願っていたが、あやつは今でも里一番の下戸だ」
「ふふ……そんなものよね。……シリウスも、何か願い事をしていたの?」
「……は、いつも家族が共に平和に過ごせるように、と」

 そう願ったのに、このザマだ。――所詮ただの願掛け。願いを叶えてくれる都合のいい存在などいない。そんな諦念のこもった言葉だった。

「……叶わないのなら、私たちの力で叶える」

 空の向こうではない、同じ空の下に確かに存在しているはずの妹を想いながら、そう口にした。それを聞いたシリウスは、「そうだな」と笑う。

「でも、それはそれとして願い事はしておこうかしら。減るものでもないのだし」

 願いを書き込む短冊はない。代わりに両手を組んで、目を閉じる。

「……妹を取り戻せますように、か?」
「いいえ。それは私たちの力で成し遂げなければならないことだから」

 愛する妹を取り戻す。それは自分自身がやるべきこと。だから、自分の力では及ばないこと――今どこにいるかも知れないあの子が、せめて少しでも心安らかでありますように、と。私の代わりに、空の向こうからあの子を見守っていてほしい。そう願った。――離れ離れになった二人が再会できたように、自分たちも。煌めく星々を瞳に映しながら、その決意を胸に込めた。
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