Tuning the world
「……はあ」
わざと聞かせるかのような溜息。もちろんそれで気が良くなるはずもないが、かといってわざわざその態度を咎めるような性格でも関係でもない。ゆえにメルリーチェは眉一つ動かさなかった。――雑用で席を外しているクラレンスとネイを待つ間、メルリーチェとラグナは一つも言葉を交わさない。しかし、その空間にあるのは静寂ではなかった。
「みぃ! みゅう〜……」
ゴロゴロ、ゴロゴロ。ラグナの膝の上にいるラトレイアのご機嫌な鳴き声が、静寂を追い払っていた。ラグナはラトレイアを除けばメルリーチェと二人きりという状況への苛立ちを鎮めるかのように、ひたすらにラトレイアを撫で回している。表情は険しいのに、ラトレイアに触れる手はどこまでも優しい。その奇妙な矛盾が少し可笑しかった。
「……み? みぃ! みゅっ!」
仲睦まじい二人のやり取りに口を挟みはしないものの、やはり無邪気にはしゃぐラトレイアの姿は気になってしまい、つい横目で見ていると不意にラトレイアと目が合った。するとラトレイアはぱたぱたと小さな翼を動かして、メルリーチェの膝に移動する。
「……ラト」
「んみぃ! みゅう!」
ラトレイアが自分から離れ、ましてやメルリーチェの元へ行く。ラトレイアの名を呼ぶその声は咎める意図なのか、単なる落胆か。どちらにしろ、その声にもラトレイアは明るい鳴き声で返す。そしてメルリーチェに向き直り、さあ撫でろと言わんばかりにごろんと寝転がる。
「……一応確認をとるが、いいのか」
「……ラトが望んでいる。勝手にしろ。だが尻尾と翼には触れるな。そこは私でも嫌がる」
「……分かった」
そっと、その白い毛並みに触れる。――満月の夜に触れる"彼"の何倍も小さく、そしてやわらかな毛。ラトレイアの愛らしい姿はなんとも庇護欲をそそられ、メルリーチェは同じようにラトレイアを撫でたいつかの日を思い出す。
「……やはり、お前を撫でるのは心地よいな、ラトレイア」
「……やはり? おい、まさか私のいないところでこの子を撫でたことがあるのか」
「ああ。言っておくがその時もこの子から寄ってきた。無理やり撫で回したと思っているのならそれは誤解だと訂正させてもらう」
「み!」
「……分かったよ、ラト」
ラトレイアの鳴き声に宿る意思を正確に理解できるのはラグナだけである。ゆえに今ラトレイアが何を言ったのか、メルリーチェには分からない。だが、少なくともラトレイアは主と異なりメルリーチェを純粋に慕ってくれているようであった。
「んみゅ〜……」
「……幸せだろうな、このように健気に慕ってくれる者が側にいるのは」
「……あの狼は違うのか」
「……そうだな。彼も同じだ」
「みゅ? みゅう!」
形は違えど、側に寄り添い支えてくれる存在 がいる。ある意味では似た者同士――きっとこれを口に出せば、同列に扱うなとラグナは怒るだろう。だからメルリーチェはそれを心の中に仕舞って――二人を交互に見やるラトレイアも同じことを考えているのだろうかと、期待混じりの想像をしながら、彼女に優しく笑いかけた。
わざと聞かせるかのような溜息。もちろんそれで気が良くなるはずもないが、かといってわざわざその態度を咎めるような性格でも関係でもない。ゆえにメルリーチェは眉一つ動かさなかった。――雑用で席を外しているクラレンスとネイを待つ間、メルリーチェとラグナは一つも言葉を交わさない。しかし、その空間にあるのは静寂ではなかった。
「みぃ! みゅう〜……」
ゴロゴロ、ゴロゴロ。ラグナの膝の上にいるラトレイアのご機嫌な鳴き声が、静寂を追い払っていた。ラグナはラトレイアを除けばメルリーチェと二人きりという状況への苛立ちを鎮めるかのように、ひたすらにラトレイアを撫で回している。表情は険しいのに、ラトレイアに触れる手はどこまでも優しい。その奇妙な矛盾が少し可笑しかった。
「……み? みぃ! みゅっ!」
仲睦まじい二人のやり取りに口を挟みはしないものの、やはり無邪気にはしゃぐラトレイアの姿は気になってしまい、つい横目で見ていると不意にラトレイアと目が合った。するとラトレイアはぱたぱたと小さな翼を動かして、メルリーチェの膝に移動する。
「……ラト」
「んみぃ! みゅう!」
ラトレイアが自分から離れ、ましてやメルリーチェの元へ行く。ラトレイアの名を呼ぶその声は咎める意図なのか、単なる落胆か。どちらにしろ、その声にもラトレイアは明るい鳴き声で返す。そしてメルリーチェに向き直り、さあ撫でろと言わんばかりにごろんと寝転がる。
「……一応確認をとるが、いいのか」
「……ラトが望んでいる。勝手にしろ。だが尻尾と翼には触れるな。そこは私でも嫌がる」
「……分かった」
そっと、その白い毛並みに触れる。――満月の夜に触れる"彼"の何倍も小さく、そしてやわらかな毛。ラトレイアの愛らしい姿はなんとも庇護欲をそそられ、メルリーチェは同じようにラトレイアを撫でたいつかの日を思い出す。
「……やはり、お前を撫でるのは心地よいな、ラトレイア」
「……やはり? おい、まさか私のいないところでこの子を撫でたことがあるのか」
「ああ。言っておくがその時もこの子から寄ってきた。無理やり撫で回したと思っているのならそれは誤解だと訂正させてもらう」
「み!」
「……分かったよ、ラト」
ラトレイアの鳴き声に宿る意思を正確に理解できるのはラグナだけである。ゆえに今ラトレイアが何を言ったのか、メルリーチェには分からない。だが、少なくともラトレイアは主と異なりメルリーチェを純粋に慕ってくれているようであった。
「んみゅ〜……」
「……幸せだろうな、このように健気に慕ってくれる者が側にいるのは」
「……あの狼は違うのか」
「……そうだな。彼も同じだ」
「みゅ? みゅう!」
形は違えど、側に寄り添い支えてくれる