Tuning the world
か細く小さな音が、ゼルティオスを眠りから呼び覚ます。その音の正体は探るまでもなく目の前にあり、寝起きの彼の意識を一気に現実へと引き戻した。
「……ディエス、どうした。何を泣いておる」
「ゼルティオス……」
己が身に縋り付き、声を押し殺して泣く最愛の人の姿に多少驚きつつも、ひとまずその頭を撫でて落ち着かせようとする。今さっき泣き始めたばかりではないのだろう、ディエスの目は赤く腫れ、ゼルティオスの胸元は彼の涙で濡れていた。ディエスはゼルティオスの存在をしっかりと確かめるように、その紅い双眸に彼の姿を映す。
「……起こしてしまってごめんなさい」
「泣いているおぬしを前に、我がそのようなことで怒ると思っているのか?」
「……そう、ですね。あなたがそのような人とは思わない。……ありがとう」
ディエスはゼルティオスの手にそっと触れ、自身の胸元に寄せる。彼にしては積極的な行動だとは思いつつも、つまりはそれほど不安に駆られているのだろうと想像させられた。彼は愛する者の存在を確かめ、実感しようとしている。
「……夢を、見たのです。あなたが私を置いてどこかに行ってしまう夢を……彼の、ように」
ディエスの心に刻みつけられた友の姿。別れの言葉すらも言えないまま離れ離れになった存在。ディエスは一人で目覚めてから、悲しみや不安のあまり泣いていたのだろう。ゼルティオスを起こすまいと、必死に声を押し殺して。
「……たかが夢に惑わされるな。我がおぬしを置いて行く? 選択肢にすら入らぬ愚行だ。……おぬしのそのような弱き姿を見れば、なおのことよ」
「……分かっています、分かっているのです。あなたは私と共にいてくれる……そう信じています。でも……心のどこかで、考えてしまう……! あなたもまた、彼のように……っ」
ディエスの言葉は遮られた。唇を奪われたことによって。不意の行動にディエスは身を強張らせるが、背に添えられた大きな手によってその緊張も解かれていく。
「……我の前で他の男の話を出すな。考えるな。……我が眼を見よ。おぬしと同じだ。おぬしの存在は、我が魂の髄まで染み付いておる。おぬしは、違うか? 我の存在など、取るに足らぬものか?」
「……」
沈黙。図星だからではない。自分が彼を愛しているように、彼もまた、自分を愛してくれている。そう信じている。だからこそ、彼がいなくなってしまうという疑念を少しでも抱いてしまう自分が情けなかった。
「……まあ、無理もないことだ。おぬしの心はそうやって、別れの痛みから己を守ろうとしているのだろうな。ならば、その必要も無くなるようにすればいいだけのこと。……そうであろう、ディエス」
「……ゼルティオス」
名を呼び、懸命に存在を確かめる。離れないよう、手繰り寄せる。あたたかく、大きな身体。――今はただ、己が夢が生んだ不安をその温もりで癒してほしい。ディエスはもう一度ゼルティオスの身体に身を預け、彼もまた、包み込むようにディエスの細い身体を抱き寄せた。
「……ディエス、どうした。何を泣いておる」
「ゼルティオス……」
己が身に縋り付き、声を押し殺して泣く最愛の人の姿に多少驚きつつも、ひとまずその頭を撫でて落ち着かせようとする。今さっき泣き始めたばかりではないのだろう、ディエスの目は赤く腫れ、ゼルティオスの胸元は彼の涙で濡れていた。ディエスはゼルティオスの存在をしっかりと確かめるように、その紅い双眸に彼の姿を映す。
「……起こしてしまってごめんなさい」
「泣いているおぬしを前に、我がそのようなことで怒ると思っているのか?」
「……そう、ですね。あなたがそのような人とは思わない。……ありがとう」
ディエスはゼルティオスの手にそっと触れ、自身の胸元に寄せる。彼にしては積極的な行動だとは思いつつも、つまりはそれほど不安に駆られているのだろうと想像させられた。彼は愛する者の存在を確かめ、実感しようとしている。
「……夢を、見たのです。あなたが私を置いてどこかに行ってしまう夢を……彼の、ように」
ディエスの心に刻みつけられた友の姿。別れの言葉すらも言えないまま離れ離れになった存在。ディエスは一人で目覚めてから、悲しみや不安のあまり泣いていたのだろう。ゼルティオスを起こすまいと、必死に声を押し殺して。
「……たかが夢に惑わされるな。我がおぬしを置いて行く? 選択肢にすら入らぬ愚行だ。……おぬしのそのような弱き姿を見れば、なおのことよ」
「……分かっています、分かっているのです。あなたは私と共にいてくれる……そう信じています。でも……心のどこかで、考えてしまう……! あなたもまた、彼のように……っ」
ディエスの言葉は遮られた。唇を奪われたことによって。不意の行動にディエスは身を強張らせるが、背に添えられた大きな手によってその緊張も解かれていく。
「……我の前で他の男の話を出すな。考えるな。……我が眼を見よ。おぬしと同じだ。おぬしの存在は、我が魂の髄まで染み付いておる。おぬしは、違うか? 我の存在など、取るに足らぬものか?」
「……」
沈黙。図星だからではない。自分が彼を愛しているように、彼もまた、自分を愛してくれている。そう信じている。だからこそ、彼がいなくなってしまうという疑念を少しでも抱いてしまう自分が情けなかった。
「……まあ、無理もないことだ。おぬしの心はそうやって、別れの痛みから己を守ろうとしているのだろうな。ならば、その必要も無くなるようにすればいいだけのこと。……そうであろう、ディエス」
「……ゼルティオス」
名を呼び、懸命に存在を確かめる。離れないよう、手繰り寄せる。あたたかく、大きな身体。――今はただ、己が夢が生んだ不安をその温もりで癒してほしい。ディエスはもう一度ゼルティオスの身体に身を預け、彼もまた、包み込むようにディエスの細い身体を抱き寄せた。