Tuning the world

「ふふ……ラトは食いしん坊だな」
「みぃ!」

 夜更け。ラグナは小袋の中からまた一つ、小さく切り分けた人参を取り出してラトレイアに与える。ラトレイアはもきゅ、と人参を平らげ、やわらかな微笑みを浮かべるラグナをきらきらとした眼差しで見上げる。このやりとりは本日五回目だった。ラグナは同じように人参を取り出そうとするが、隣にいたネイがその手をガシリと掴む。

「ちょっと、あげすぎじゃない?」
「うるさい。ラトが食べたがっている」
「……乙女を太らせたら承知しないからね」
「……」
「みゅ……?」

 ラグナは硬直する。しばし黙っていたが、やがて彼が小袋の口を紐で結び、ラトレイアの至福の時間は終了となった。

「みゅ……!? みゅっ! みゅう!」
「すまないな、ラト。たくさん食べたから、今日はもうやめようか」
「みゅ! がおー!」
「……ラト、引っ張らないでくれ。ちぎれ……っ!?」
「あっ」
「みゅー!」

 紐を引っ張るラトレイアから袋を死守しようとするラグナだったが、ラトレイアに強く出ることができずに紐は容易く解かれた。散乱する人参、それらに齧り付くラトレイア。――その日から一週間ほど、ラトレイアの食費が少しだけ浮いた。その浮いた分がエレシア達への支援代に変わり、それが巡り巡って世界が変わるきっかけになったのかは、定かではない。
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