Tuning the world

「うーん……足、動かしたいんだけどな……」

 狭い洞穴の中、イリヤは苦笑する。膝の上には、髪の長い自分――すうすうと寝息をたてて眠るラグナ。その寝顔はあまりにも無垢で無防備で、まるで母親の胎内で羊水に包まれる赤子のようにさえ思えた。

「……どんな夢を見ているの?」

 薄い水色の髪を梳かすように撫でる。今、彼女の白縹の瞳はどんな世界を映しているのか。それとも、人ならざる彼女は夢を見ないのだろうか。だとしたら、それはきっと哀しいことだ。この乾いた世界から逃げ出して、お腹いっぱいのご飯を食べることも、獣と話すことも、星の海を泳ぐこともできない。
 ――眠りは仮初の死。現実を抜け出し、夢という美しい世界に溺れることができる。ラグナは今、その世界にいるのだろうか?

「……どうか、いい夢を。私の可愛い妹……」

 イリヤの指が、ラグナの瞼をなぞる。皮一枚を隔てた瞳に、その願いが届くように。
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