長篇

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「おや、あかりさん、土方さんに奴隷契約でもさせられたんですかィ?」
「ああっ?誰が誰を奴隷にさせてるって?」

肩を叩いてもらいながら睨む土方を無視して、自分と再契約しないかと誘う沖田。最近ではすっかり沖田の冗談にも慣れてきたあかりは、肩叩きする手を止めずに向き直り答える。

「奴隷契約はしませんけど。よければ、沖田さんの肩も叩きますよ?」
「そうですね。そこまで言うならマッサージさせてやるよ」
「沖田さん、せめて心の声は建前というオブラートに包んでください」

別に肩凝りなんかとは無縁の若い身体ではあったが折角の申し出であり、土方と楽しげにしているのも少し面白くないという思いもあって、沖田も縁側に座り催促する。座る土方の後ろで膝立ちになっていたあかりが沖田の後ろへ移動すると、髪が揺れたせいかふわっと香りが届く。食堂の時のように鼻をすんすんとすると、二人の気付かないところで沖田は何かを確信するような顔をした。


*****


楽しい時間ほどあっという間に過ぎ行くもので、あかりの就業時間の終わりがきた。今日も万事屋には誰も居ないのかという思いと、今日さえ過ぎれば銀時達が帰ってくるんだという二つの思いとを抱いてあかりが帰ろうとすると、屯所を出てすぐのところに沖田が立っていた。

「あれ、沖田さんお出掛けですか?」
「ええ、まあ」

駆け寄ってきたあかりが隣に立つと沖田は歩き出した。あかりも同じ方向へ歩いていく沖田を見て、話を聞きながら行こうと並んで歩く。そんな二人の様子を屯所の中から偶然に目にしていた土方は、メールを送ろうとしていた携帯を閉じて部屋に戻った。


他愛もない話をしながら歩いてきた二人。もう万事屋の近くまで来てしまったところで、漸くあかりは沖田にどこへ行くのかという質問を投げ掛けた。

「ところで、沖田さんはどこへ行くんですか?結構歩いて来ちゃいましたけど、遠回りとかになってませんか?」

自分と話していたものだからタイミングを逃したり、ルートが遠回りになっていないかと思い、改めて沖田に尋ねると思いも寄らない答えが返ってくる。

「いいや、それなら大丈夫でさァ。俺はあかりさんを送るつもりで来たんですから」
「え?」

沖田の言葉が予想外なものであかりの足が止まる。すると、さっさと帰りますぜ、と言ってあかりの手を取って歩き出した。

「え、じゃあ、沖田さんの用事はなかったんですか?」
「これが俺の用事でさァ」

どうして彼は自分を送り届けてくれるのか、という疑問についてあかりが考えていると、手を繋いだままの沖田は更に驚く言葉を続けた。

「ところで、あかりさん。今朝は早く来たって言いやしたけど……本当は土方さんの部屋に泊まってたでしょう?」
「お、沖田さん……今、なんて?」

驚き、再び立ち止まるあかり。数歩先へ行った沖田と繋がったままの手が、距離ができたことで腕が伸ばされて高い位置になる。

あかりさんは、ていうか他の奴らも気付いていないかもしれませんが」

そう言って振り返った瞬間に手を強く引いて、沖田はあかりを自分の方へと引き寄せた。

「今日のあかりさん、土方さんの匂いがしますぜ」
「に、匂い?」

あかりの肩口に顔を寄せると、今朝、食堂でしたときのようにすんと匂いを嗅ぐ沖田。密着する寸前なほどの近さでありながら、繋いだ手以外は触れ合っていない距離感が下手に抱き締められたりするよりあかりの羞恥心を煽る。慌てて後退るあかりだがしっかり握られた手のせいで三歩も離れることはできず、顔を真っ赤に染めて沖田の意図を窺おうとする。

「つっても、土方さんの吸ってるタバコの匂いって意味ですが」
「タバコ……?」

言われたあかりが匂いを確かめようと自由な方の腕を上げて袖を匂ったり、髪を一房摘まんで匂いを嗅いでみる。しかし、普段から嗅ぎ慣れてしまっているせいか、自分ではよく分からなかった。そんな自分より屯所に居る時間も長ければ、土方と共に行動することも多いだろう沖田が気付くなんて、彼はなんて鼻が利くのだろうと頭の中を思考が目まぐるしく過ぎる。黙り込んで考えているあかりの手を、今度は最初に繋いだ時のように優しく引いて万事屋への道を進み出す沖田。

「まあ、半分……じゃないな、三割くらいは鎌を掛けたつもりで言ったんですが、当たってやしたか」
「……えーと、はい」


それから、万事屋までの道程で何故そういう展開になったのかという説明を下着泥棒の件から説明したあかり。当然のように沖田は面白がって真選組とは関係なしに個人的に懲らしめてやると言い出したが、そうなると犯人が可哀想に思えてきてしまい、銀時に相談するから大丈夫とあかりは断った。

「おや、着いちまいましたね」
「はい。送ってもらってありがとうございました」

万事屋というかスナックお登勢の前まで来たところで別れようかとあかりがお礼を言うと、沖田はその言葉を流し階段を登り始めた。

「家に入るところまでを見届けるのが送り狼の仕事でさァ」
「送り狼って」

なんだか違う気もするが下着泥棒の話を聞いて気遣ってくれているらしい沖田にあかりは綻んで、後に付いて階段を登った。戸を開けて玄関の中へ一歩入ったあかりは改めてお礼をする。

「それじゃあ、今度こそ、ありがとうございました。……あの、沖田さん?」

しかし、取られた手は依然としてそのままで、あかりは首を傾げて沖田を見上げる。沖田の表情は真顔というほど真顔ではなが、気が抜けているようでも言いたいことがありそうでもあって、何を考えているかさっぱり分からない。数秒見合った状態が過ぎたところで、表情を変えないままの沖田が手をぎゅっと握り直した。また手を引っ張られるのではと感じたあかりは足に力を入れる。しかし、今度は予想の反対で、ぱっと手を解放した沖田がこちらへ身体を寄せてきた。今度は密着しそうでしない距離ではなく、完全にあかりを包み込みでいる。


「あっ、あああ、あの!沖田さん!」


顔だけでなく耳まで染めるあかり。沖田はその色付いた耳に唇を寄せてそっと囁いた。

「もし、今夜なにかあったら土方さんでなく、俺を呼んでくだせェ。変態にはキツいお灸を据えてやんなきゃなりやせんから」

それだけ言うとあかりを解放して、足が半分だけ乗ってしまっていた戸のサッシから身を引いた沖田。そして、今にも帰ろうかという具合に身を翻す。顔の熱が未だ引かないでいるあかりは酸素を求める金魚のように口をぱくぱくさせ茫然としていたが、去っていこうとする姿を見て慌てて引き留めた。

「お、沖田さんっ、なにを突然!」

あかりの声に足を止めた沖田は身体ごと向き合うことはなく、首だけをあかりの方へ少し向けて口を開いた。

「なにって、そりゃあ……送り狼ですから」

なにも無しには帰れねぇ、そう言って口許に笑みを浮かべて帰って行ってしまった。残されたあかりは固まった顔のまま静かに戸を閉め、鍵を掛け、よろよろと後退ると玄関の段差に踵をぶつけてそのまま尻餅をつく。

「なに……ぜんっぜん訳が分からない……」

呟くと熱を持つ顔を手で覆い、暫く玄関で打ち拉がれた。


*****


まだ日も長く漸く夕焼け色に染まってきた町中を、万事屋から蜻蛉返りで歩く沖田。別れ際のあかりの顔を思い出してくっと口角が上がりかけるが、それを制してポケットに手を突っ込みながらはてと考える。あかりをわざわざ万事屋まで送ったのも、からかって見せたのも、気紛れと言えばそれでお終いだ。だけど、どうして気が紛れたのか、と。

あかりが土方の部屋に泊まり匂いを付けていたから?面白そうなことになってるのにあかりも土方も、そんな話をしなかったから?昼下がりに仲良さげに縁側に二人で居たから?そのどれもが自分の中でしっくりとは嵌らなくて、取り敢えずそれらを総括して、みんなの玩具……もといマスコットをムッツリ土方が独占していたからだと結論付けた沖田。

「しかし、抱き締めたところで匂いなんて移らねぇよな」

愛煙家でも、香水を振ってるわけでもない自分がちょっとくっ付いたところで匂いなんて移るものでもない、そう振り返るとさっきの自分が馬鹿に思えてきてまた口角が上がってゆくのを感じる。

「……ん?それって俺は自分の匂いを付けたかったってことなのか?」

ふと零した言葉に自分で「ガキくせー」と返して、沖田は屯所へ戻った。


*****



沖田が去って暫し打ち拉がれていたあかりは、復活した後もどこか少し呆けた様子で夕食を食べ、お風呂を済ませ、大人しく布団に入っていた。沖田は人をからかって楽しむ癖はあるが、今日みたいに触れてくるようなことは記憶の限りでは今まで無かった。特に意味も無いのかもしれないし、気を許してきているからこそできる距離感でのおふざけなのかもしれない。徐々に眠気がやってくる中でぼうっと考えていると、一つの仮説が閃く。

「はっ……もしかして!」

もしかして、こうして勝手に思いあぐねることまで予想していたのではないのだろうか、という考えにあかりは行き着く。

「現に帰ってきてからずっと考えてるし、というか考えさせられているし……」

昨晩、慣れない一人の夜に悪い想定を繰り返して自分でドツボを形成したのを聞いた沖田が、そういう余計なことに考えを巡らせないようにしたのかもしれない。と、割と沖田という人物を計り損なった思考回路にあかりは辿り着き、そしてそのまま眠りに誘われていった。


*****


翌朝、すっきりと目覚めたあかりは銀時達が帰ってくると少し浮かれて掃除を済ませた。帰ってくるのは日中だと言うから会えるのは仕事終わりになってしまうのに、朝からそわそわと忙しなく動く。

「旅行って楽しいけど、家に着くとどっと疲れたりもするよね」

自分が旅行から帰ってきた時を思い出し、銀時達が帰ってきた時に風呂に入れるよう湯を張っておく、これで追い炊きすれば問題ない。夕飯までの間にお腹も空くかもしれないと簡単な食事も用意して、それらをメモに記してテーブルの上に置いておくあかり

「うん、これでよし」

自分の身支度も済ませ、まだ帰ってこないとは分かっていつつも今日はギリギリまで家を出るのを粘ろうかとあかりが考えていると、まだ静かな江戸の町に聞いたことのない機械音や空気が振動する音が聞こえた。それらは次第に大きくなって、窓もガタガタと震え出す。

「地震……じゃないよね?なんだろう……」

そっと窓際に立って外の様子を見るも町の中に音の発生源らしいものは見あたらない。しかし、道路をよく見てみると不自然に色分けされていて、それが大きな影であることが分かった。振動で音を立てる窓を開けて身を乗り出しながら空を見上げると、そこにはジェット機のような大きな翼もヘリコプターのようなプロペラもない、海を渡るような大きな船が浮かんでいた。

「おっきな船だなあ」

あかりが呑気に見守っていると、その船は万事屋の真上からどんどん降下してくる。緊急事態で不時着という風には見えないが、こんな町中に降りてくるなんて不自然だ。何よりあの船はちゃんと空中で止まってくれるのかと、心配になりながら目を凝らしていると、船から数人が地上を見下ろしている姿を見つける。段々近付いてくるそれを息を飲んで見ていると、船の甲板に行る人達の姿がはっきりしてきた。

「えっ、もしかして、銀さん達?」

そう、船に乗って近付いてきたのはあかりが帰りを待ちわびていた銀時達で、間違いようがないくらいに姿がはっきりとなるところまで高度の下がった船から、なんと飛び降りてきた。


ズドンともズシンともドカンとも形容できない大きな音を立てて、万事屋の前の道路に銀時達が降り立つ。というか落ちた。慌てて表へ飛び出すあかり

「大丈夫ですかっ?銀さん、神楽ちゃん、新八くん、定春!……と、どちら様?」

土埃が上がる中に飛び込んでみんなの姿を確認すると、その中に一人、あかりの知らないモジャモジャ頭の男の人が居た。地面に伏した状態から徐々に起き上がる銀時達はどうやらみんな無事なようで、相変わらずのタフさだなあとあかりは変なところで関心した。万事屋の上空、数十メートルにつけていた船は気付けば上昇していたらしく小さな姿になりながら、空で待機しているようだった。取り敢えず起き上がれた銀時達と万事屋の中に戻る。モジャモジャ頭の人はまだ意識が戻っていないようで、銀時に担がれソファに転がされた。

「えーと、みんな……お帰りなさい?」

突然の事態に把握が追い付かないあかりだったが、ひとまず戻ってきた銀時達を迎える言葉を告げる。それを聞いた彼らは一体旅先でなにがあったのか、酷くグッタリした様子で力無くただいまと返した。

「あれ、ツアーの船じゃないですよね?」

自宅まで送り届けるなんて聞いていないし、本当に彼らの身になにがあったのか。そして、銀時達と一緒に降りてきたこの人も誰なのか。まだ目を覚ましていないその人が心配になってあかりがそっとのぞき込むと、なんの前触れも無しに勢いよく身体を起こして笑い出した。

「ひゃっ」
「あっはっはっはっ!まっことお前と居ると退屈する暇もないのう、金時!」

サングラスをしているのもあって、どこを見ているのか分からないその人にあかりが驚き動けなくなっていると、首をぐるりとあかりの方へ回して笑い出す。

「誰じゃ、お前さん!」
「えっ」
「ん?んんっ?待てよ。お前さん、どこかで……」

そう言って無遠慮に顔を近付けると、サングラスの向こうの瞳であかりをまじまじと見つめる。その勢いに負け大人しくあかりが視線に耐えていると、復活した銀時がその人をソファに張り倒した。

「なにカビ臭ぇ口説き文句ほざいてんだ、離れろォ!」
「きゃーっ、ちょっと銀さんそれはやり過ぎです!」

張り倒された瞬間だけ気を失ったようだが、またすぐに意識を戻したその人は笑いながら起き上がった。

「なんじゃ。また、わしの人違いか!悪かったのう!」

モジャモジャの頭に手をやって笑いながらも謝るその人に、さっぱり覚えは無かったが悪い人ではないことは伝わったあかりは自己紹介をした。

「はじめまして。私、伊吹あかりっていいます。多分、貴方とは初対面だと思います」
「ほうかー、気のせいじゃったか。わしは坂本辰馬じゃ、よろしくの」
「坂本さんですね。よろしくお願いします」

それから、銀時達の旅行がとんでもない出来事に見舞われたこと、そこで偶然再会した銀時の旧友である辰馬の船で乗客が助けられたこと、彼が星々を股に掛けて貿易をする「快援隊」という組織のリーダーであることなどを聞いたあかり

「それはそれは……通りでみんなしてグッタリしてるはずですね。お疲れさまでした」

聞いてる分には楽しい話に聞こえなくもないが、普段からタフさに目を見張る彼らがこれだけ疲れているのだから、相当大変な船旅だったことがあかりにも分かった。労ってやりたい気持ちもあったが、屯所へ行く時間も迫っていて風呂や食事のことだけ伝えて万事屋を後にする。玄関を出ると、そこにはまたあかりの知らない人が壁に凭れて立っていた。マントのようなものを纏い、大きな笠を被るその人は、あかりを見ると笠の縁をくいっと押し上げて凛々しく美しい顔立ちを見せた。そこで初めて女性だったと気付く。

「朝っぱらから騒がしくしてすまないの」

辰馬と同郷と思われる言葉を聞いて快援隊の人だと理解したあかりは、とてもまともそうな彼女に挨拶をした。

「いいえ、ちょっとびっくりしましたけど、あんな立派な船は初めて見たので驚きました!あ、私は伊吹あかりと言います。この度は銀さん達を助けて下さりありがとうございます」
「わしは陸奥じゃ。そんなに畏まらなくていい。あの馬鹿を追っていたら、成り行きでそうなっただけじゃしの」

彼女、陸奥はそう言って笠を下ろして再び壁に背を預けた。

「あの、良かったら陸奥さんも中にどうぞ。大したものではないですけど、ご飯も作ってあるので召し上がってくださいね。それじゃあ、私は失礼します」

言うだけ言って駆け足で遠ざかっていくあかりの後ろ姿を見ながら、「お互い難儀な男の下におるの」と陸奥は呟いた。


*****


屯所に着いたあかりは分かり易いくらい上機嫌に仕事をこなす。

「おや、あかりさん、偉く上機嫌ですね」
「はい。今朝、銀さん達が帰ってきたんです!旅先で再会したってご友人も一緒に。その人がまた面白い人で」

にこにこと笑顔を湛えて話すあかりを見て、昨日のことは気にしてないというか綺麗さっぱり忘れてそうだな、と感じた沖田は微妙な心持ちになった。

「あ、そういえば今日は近藤さんの姿が見えないんですけど、どこかお仕事に出てるんですか?」
「いいや。近藤さんは今日は非番だから、女の尻でも追っかけているんでしょう」
「また沖田さんはそんなこと言って。とにかく、お休みなんですね」

居れば必ず分かるような近藤に朝から会っていなかったあかりは納得して、洗い物へと作業の手を戻した。


*****


昼下がり。一人の隊士の裾の解れを見て修繕を申し出ると、ボタンだ裾だ破れだと他の隊士達も隊服や私服を持ってきて、あかりの前にはあっと言う間にこんもりと山ができた。それを縁側で延々と直すあかりの前に土方が通りかかる。

「……なんだこりゃ」
「あ、土方さん。土方さんもなにか直したいものありますか?」

既に終わるのか疑問に思うほど重ねられた衣類を前に、土方にも出すものはあるかと尋ねるあかり

「お前、これ終わるのか?」
「大丈夫ですよ。こうして重ねられてると沢山に感じますけど、直すのはそれぞれ一ヶ所とかですし」
「あんまり何でも安請け合いするんじゃねーぞ」
「はーい」

本人が大丈夫だと言うのだからこれ以上とやかくは言わずその場を去ろうとした土方であったが、あることを思い出し踏み出した一歩を戻した。

「そういえば、万事屋帰ってきたんだろ」
「はいっ、朝に帰ってきましたよ!」
「お前、ちゃんと言ったのか?あのこと」
「あのこと?あのこと、あのこと……あ!!」

満面の笑みで答えていたあかりが大きな声を出して固まる。そして、壊れたカラクリのようにギギギ……と首を回すと土方から顔を逸らした。これはまた忘れていたなと理解した土方は、あかりの頬を片手で掴んで自分の方へ向かせる。

「お前……それじゃあ、アイツが旅行出る前と同じじゃねぇか。本当に悩んでんのか?ああ?」
「ごめんなさい、ごめんなさいっ、今日帰ったらちゃんと相談しますからー!」

土方とあかりによる一進一退の攻防が続く中、それを一時休戦させる助け船のようにあかりの携帯が鳴る。これを好機とばかりに素早く土方の手から抜け出してあかりが携帯を確認すると銀時からのメールだった。

「あ、銀さんからのメールです。なになに……『今日はふんどし仮面を捕まえるから遅くなる。飯は先に食ってろ』……ふんどし仮面?」

初めて見るワードに最近のヒーローは攻めてるなあ、などとあかりが思っていると、土方が小さく声を上げて脇に挟んでいた新聞を開いた。あかりもそれをのぞき込む。

「ふんどし仮面ってこれか」
「えーと……『またも出没、怪盗ふんどし仮面』?」

新聞を床に広げて二人でそれを読み進めていくと、ふんどし仮面とは最近巷を騒がせている下着泥棒だということが書かれていた。その記事を読み終え、顔を合わせる土方とあかり

「つまり、私の下着を盗んだのも」
「ふんどし仮面?」

顔を見合わせ「ふんどし仮面」の名前を口にしたらなんだか可笑しくて、二人は同時に吹き出した。

「ふ、ふんどし仮面って、私はこんなのに無駄に怯えてたんですか?」
「全くだ。しかもモテねぇ男共にバラ撒いてるってんだから、集めてどうこうってわけでもないしな」

予想外の真実となった下着泥棒の犯人に一頻り笑わせてもらうと、あかりは銀時に「分かりました。絶対に捕まえてくださいね」という返信をした。

「ふふ、これでもう、ふんどし仮面に怯える生活をしなくて済みそうです」
「犯人がこれなら捕まらなくても、もう怖かねぇだろ」
「かもしれません。土方さんにはお騒がせしてご迷惑をかけました」
「ああ、もう盗まれても心配の必要はねぇな」

思わぬ形で収束を迎えそうな一件に安堵すると土方は仕事へ、あかりは衣服の修繕に戻った。その日は夜遅くに銀時と神楽が帰ってきたのだが、あかりが思っていたよりもふんどし仮面は手強かったのか、二人は大きな怪我こそないものの小さな傷を身体中に作っていた。そして、ふんどし仮面はどうなったのかと尋ねると。

「爆発した」
「爆発したアル」

とだけ返された。


*****


翌朝。下着泥棒の犯人も成敗されたようで憂いの晴れたあかりが足取り軽く屯所へ向かっていると、道の端で倒れている壮年の男性がいた。

「大丈夫ですか、救急車を呼びますね!」

駆け寄って意識があるのを確認するとポケットから携帯を取り出すあかり。しかし、男はその手を制して救急車も警察も呼ばないでくれと頼む。だが、男は全身至る所を怪我していてこのままにしておくわけにもいかない。

「でも、こんなに怪我をしてるのにっ」
「いいんだ。これは俺が戦った証なんだ……」

そう言ってよろよろと立ち上がった男はあかりの顔を見て驚いたような表情を一瞬見せる。あかりは男が立ち上がったことで膝の傷から血が流れていることに気が付き、ポケットから洗い立てのハンカチを取り出し手早く男の傷を塞いだあかり

「じゃあ、せめてこれだけでも」
「お嬢さん、アンタって人は……。すまない、本当に悪かった」

怪我を手当しただけなのに何度も謝り出す男にあかりは戸惑いながらも、酷く弱ったその姿が気の毒になって励ます。

「そんなに謝らなくてもいいんですよ。怪我、ちゃんと治してくださいね」

すると、今度はお礼の言葉を繰り返しながら、男はまだ静かな町の中を進んでいってやがて見えなくなった。

「大丈夫かな、あのおじさん……って、いけない、時間!」

見えなくなるまで後ろ姿を見届けたあかりが携帯を見ると、もう時間が差し迫っていて慌てて屯所へ向かって駆けだした。





『……あかり?』
「え?」




まだ、開いていない店ばかりの通りを駆け抜けていると、不意にどこからか名前を呼ばれた気がしてあかりは立ち止まり辺りを見回す。しかし、どこにも自分を呼んだらしい人の姿はなく、あかりは首を傾げた。

「気のせいかな?」

少なくとも立ち止まった自分に声を掛けてこないのだから、呼ばれたのが気のせいじゃないにしても、こちらに姿は見せないのかもしれない。そう思ったあかりは後ろ髪が引かれる思いを残しつつも、遅刻を免れるため先を急いでいった。





あかり……どうして、お前が」

声の主はあかりが走り去ったのを確認すると通りへ姿を現した。そして、困惑したように、それでいて懐かしさを噛みしめるように、もう一度だけあかりの名前を呟くと静かにその場を去った。


 終

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