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紅き魔女と呪われし男


これは、まだリリアが10歳にも満たない、幼き日の思い出。その日は、天気の良い至って普通の日だった。



「お母さん!お花とってもキレイだね!」


「えぇ、そうね。とっても綺麗ね」

リリアと母の二人は家からそう遠くはない、森の中の開けた場所に来ていた。多忙な母を独り占め出来る唯一の場所であり、唯一の時間。リリアはこの場所がお気に入りだった。

「持って帰ったら、お婆ちゃん喜んでくれるかな?」


「きっと喜んでくれるわ。だって、リリアからのプレゼントだもの」



幼いリリアを愛おしそうに見つめるその瞳は、薔薇の花弁のように紅く、そしてとても澄んでいた。リリアの紅い瞳は、母親から受け継いだものだった。



「余り沢山摘んでしまうと、お花が可哀想だから、少しだけ摘んで帰りましょう?」


「分かった!」



花を摘むことに夢中の娘を微笑ましく見つめる一方で、リリアの母の心には不安が膨らんでいた。



近頃、魔女狩りを行う宗教団体が、村を突然訪れては、少しでも魔女の疑いのある人間を女・子供関係なく惨殺するという事件が発生していた。だが、リリア達の住む村は、周りの町や村とは孤立していたため、幸いにも魔女狩りの手は及んでいなかった。



「(もし魔女狩りが私の村まで来てしまったら、きっと瞳を見られただけで捕まってしまうわ……もしそうなったら、この子だけでも…)」


「……お母さん?」


「え?……あぁ、ごめんね。考え事をしてたの」


「だいじょうぶ?」


「大丈夫よ。心配かけてごめんね。……もう行きましょう?お父さん帰って来たら、ビックリさせましょ!」


「うん!」



嫌な考えを振り払うように、リリアの母は帰る支度を始めた。娘の笑顔を見つめながら……。
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