紅き魔女と呪われし男
二人が出会った日、この花畑にはまだ花は咲き乱れてはいなかった。
二年前の、いまだに冷え込む春先の事。引っ越して来たばかりのリリアは、足らない薬草を集めに、この日は森の奥深くまでやって来ていた。
「リチリアとシズク草……それとベゾアゴルも必要だったわね。あとは……」
「………おかあさ……どこ……」
「ん?今、何か…」
「おかあさん…何処に……」
「誰かいるみたい…。こんな森の奥深くに?」
「おかあさん、何処にいるの……おかあさん…」
声のした方に足を向けると、花の咲き乱れる開けた場所に出てきた。
「こんな場所があったなんて……女の子?」
花に囲まれた中央に、まだ幼い女の子がうずくまっていた。
「どうしたの?」
「うっ……ひっく…………お出掛けしたら、綺麗なチョウチョが居たから……追いかけたらね、おかあさんが……いなくて……ひっ」
「(迷子みたいね。どうしましょう…)」
「とりあえず、涙拭きましょうか。ね?お顔上げて?」
「うん………!……お姉ちゃん、その目…」
「!!……あの、これは……(どうしよう、また……)」
「とってもキレイ!!」
「……え?」
どんな罵声を浴びせられるか身構えていたリリアだったが、少女に掛けられた言葉に、耳を疑った。
「キラキラ光る石みたいでとってもキレイ!!」
「本当に…?」
「うん!昔ね、お父さんが見せてくれた本にね、お姉ちゃんとおんなじ色のキラキラした石のお写真があったの!!」
「そう……」
「それでね!!お姉ちゃ……お姉ちゃん?」
「いいえ、なんでもないの。ありがとう……ありがとう」
リリアは何も言わずに、自身が幼かった頃を思い出しながらただ少女を優しく抱きしめた。