紅き魔女と呪われし男
今から150年程昔、とある森の外れに紅い瞳を持つリリア・ロッテという美しい女が静かに暮らしていた。彼女の住む町では、紅い瞳はとても珍しく、周りから好奇の目で見られたという。
「(薬草の材料も減ってきてしまった事だし、今日は天気も良いから、花の芽を摘みに行こうかしら……)」
だが、彼女は他の一般人と何ら変わらない、至って普通の女性であった。けれど町の子供たちが怖がると言って、自ら森の奥に住んでいた。
「リリアー!あーそーぼー!!」
「あら、アローゼ、こんにちは」
「こんにちわ!ねぇリリア!今日ね、リリアに早く会いたくて早起きしたの!!」
「本当に?とっても嬉しいわ、ありがとう」
ただ一人だけ、リリアを怖がらない子供がいた。名前はアローゼ・ハインド。ごく普通の家庭に育ち、親からの愛情を一心に受け、すくすく育った9歳の女の子。
「あのね、わたしあと少ししたら10歳になるの!そしたらリリアみたいに素敵なお姉さんになれるかな?」
「そうね!でも、アローゼなら私より素敵なお姉さんなるから大丈夫」
「そんなことないの!リリアはわたしより素敵なの!」
「ふふ、ありがとう」
「ねぇリリア、さっきお出掛けしようとしてたの?邪魔しちゃった?」
「そんなことないわ!お花の芽を摘みに行こうとしてたの。アローゼも一緒に行きましょう?」
「やったぁ!!」
アローゼは花の芽を摘むと聞いて、瞳をキラキラさせながら喜んだ。どこに行くにも、アローゼは必ず花の形をした手提げ鞄を持っている。その中に沢山の花を入れるのが好きなのだと彼女は言った。
「うわー!リリアお花いっぱいだね!」
「そうね、とっても綺麗ね。今の時期が一番お花が咲いてるんですって!」
「そうなんだ!やったー!!」
「あんまり走ると転んじゃうから、気を付けてね」
「リリア見てみてー!私の大好きなお花見つけたよー!真っ赤なお花!」
「それはヒガンバナっていうのよ。ここら辺じゃ珍しいお花なの。でも、食べると体にとっても悪いから食べちゃ駄目よ?」
「わかったぁ。あ、でもね!このお花リリアの目とおんなじ色だからとっても大好き!」
「ありがとう。そう言ってくれるのはアローゼだけだから、とっても嬉しいわ」
「……なんで皆は、リリアの目を見るの嫌がるの?」
「私の目は、少し珍しいから皆びっくりしてしまうの。だから、しょうがないのよ」
「とってもキレイなのにー……」
「貴女がそう言ってくれるだけで充分よ。ありがとう」
今、リリアとアローゼの居る花畑は、二人が初めて出会った場所だった。そして、初めて出会ったあの日と変わらずに、花は咲き誇っていた。