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本編

「ねぇ、おにーちゃん何してるの?」

俺たちの出会いは突然だった。

彼女が背後にいることに、人一倍他人の気配に敏感な俺が全く気づかなくて。

「君は……誰?」

「私?私はルカナ……じゃないんだっけ。えっと、紅崎琉華。今日からここでお世話になるの」

「あぁ君が……」

一人新入りが来る、とは聞いていたがここまでとは。

「貴方は?」

「俺は碧山鳴枦。」

「へー、鳴枦くん。ここで何してたの?ベンキョー?」

俺は急いでラテン語の本を閉じ、「まぁそんなとこかな」と誤魔化した。

別にここは学校じゃないし、自分を偽ることはなかったと今なら思う。でもこの頃の俺は随分自分を偽るのに必死で、慣れていなかったらしい。

「……ふーん。鳴枦くん凄いんだねぇ。琉華、そんなの読めないや」

「え?い、いや……俺だって読めないよ。広げてただけで……」

「嘘ばっかり。あのね、琉華に嘘はつかない方がいいよ。すぐわかるから」

……これはすごい、本当にとんでもない子が入ってきたみたいだ。

「琉華ね、鳴枦くんよりも勉強できる人知ってるよ?それに、琉華も多分鳴枦くんと同じような理由で仲間はずれにされたことあるし」

そう言って琉華ちゃんは照れ笑いするかのように頬をかいた。

その時の俺は心が脆くて、不覚にも泣いてしまった。

俺があまりにも突然泣き出したからか、琉華ちゃん慌ててたっけな。今思えばちょっと恥ずかしい。

「俺、勉強しかできないんだ。親が構成員だからって理由だけでここにいる。こんなこと、年下に……しかも女の子に頼むのも悪いけど、俺に暗殺を教えて欲しいんだ」

「いいけど、私は強いよ?それに、教えるのもきっと下手くそ。鳴枦くんだって、勉強教えられないでしょ

「……なるほど」

どうやら、俺たちはジャンルが違えど天才同士らしい。



そんな日から早くも三年の月日が過ぎた。

俺がぼんやりと物思いに耽っていると、ノックの音と一緒にドアが開く。

「鳴枦くーん!……あっ、実験中だった?ごめんね」

「ううん、大丈夫。どうかした?」

「次の任務なんだけど、私と鳴枦くん一緒だって!」

「そうなんだ。資料ある?」

「もちろん!これ渡しに来たの。作戦会議するならパソコン持ってくるけど……」

「うーん、じゃあこの実験終わってから」

「はーい!了解!」

今の俺たちは師弟関係であると同時に、仕事上でよバディでもある。

基本琉華ちゃんは戦線に立たない。

ハッキングでの証拠隠滅や、情報操作で任務に参加している。

理由を聞けば、「16になるまではダメって頭領に言われたから」らしい。

近接戦闘大好きな琉華ちゃんのことだから、早く16歳になりたいって思ってるんだろうな。

あ、因みに俺は事故死に見せかけるのがよくやる手法。そのおかげで変装とかもすっかり得意になったなぁ。

「……よし、早く済ませよう」

俺は気合いを入れ直し、再び試験管と向き合うのだった。
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