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安城糸音、平成最期の夏休み

ベッドの横の窓が眩しいほどに光って、少し遅れて轟音が響く。
追って耳を打つ、大雨の降り出す音。部屋の電圧が狂ったのだろう、照明が一瞬点滅した。

「…断っておくと、君のことを誰かに言う気はない。言ったって信じてもらえるはずもない」
せいぜい俺が気狂い認定されるだけだ。彼女の秘密は、あまりに特異で他人にとっては何の意味もない。
他人には。

「ただ俺は、知りたいだけなんだ」
「…………」
「君は、彼の姉じゃない。俺と同じ、赤の他人」

初めて彼女が身動きをした。
反論するように口を開く。
「…それは」
「決まりきったことは言ってくれるなよ、面白くないから。君と彼を繋ぐものは、今何もない」
「っ…」
似た顔も、仕草も、まやかし。
彼女の顔が苦しげに歪む。
その手をぎゅっと握るのが、やけにはっきり目についた。幼い仕草だ。
彼女の脆いところに今、触れている。


「そう睨むな…俺は君の、君らの依頼を受けて、調べて、見つけただけなんだから」

今度は俺が訊く番だろう。
そう言って、俺はただ笑ってみせた。

「そして君も、鎖を見つけた。失くした記憶を」
「…………」

「なあ、安城糸音。君は──」


誰、だ。

重ねようとしたその問いが、最後まで発されることはなかった。

「俺の、姉だ」

気配もなくやってきた男が、ベッドの手すりを乗り越え俺に飛び蹴りを食らわせたからだ。
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