安城糸音、平成最期の夏休み
「えー!おじいちゃんが山の下にいる!」
「なんでなんで!気が変わったの!?」
「来れるようになったんだよ。色々あってね」
白髪の青年は心底嬉しそうに微笑んだ。
「鎖には力がある。あちこち遊びに行けるなら、永い人生も悪くはないさ……会えなくても」
「会えなくても?」
「ええ?いなくなっちゃうの?」
「ははは、大丈夫。夏休みの間はずっといるよ」
「ほんと!よかったー!」
「雨笠も帰っちゃってつまんなかったんだ」
「そうか。じゃあまた、遊ぼう」
「うん!」
ぱたぱたと山道を駆けていく子供たち、日差しはどこまでも白く。
「じゃあ山についたらかくれんぼ!おじいちゃんが鬼ね!」
「…ああ」
たとえ君たちが、忘れることを選んでも。
私はいつでも、待っているよ。