指輪のはなし
「…結婚してるんですか?」
「は?…私が?」
「いや、所長ですよ!指輪してるじゃないですか」
「ああ…そんな話でカフェまでつれてきたの?私は指輪については全然知らないけど」
そう言って、猫耳の少女はあくびをする。
片手には品のいいコーヒーカップ、たしかにこのカフェは趣味が良い。
「あれ、そうなんですか?」
「うん。…それに敬慈とは長い付き合いだけど、誰かそんな関係の人がいたとして、私のことを『ペット』って紹介されたら普通逃げると思う」
「た、確かに…」
「むしろ左崎さんは何で逃げなかったの?」
「借金があるからですよ…」
「…私は前からその話が聞きたかったんだけど…」
「大した話じゃないです。…三好さんは何か知りませんか」
「あら、私なの?」
にこにこと私たちの様子を見ていた店長にも、ついでとばかり疑問を投げかけた。
彼女と所長は長い付き合い、らしい。
まるで接点が思いつかないけど。
「よく所長の愚痴を聞いてるらしいじゃないですか」
「そうね…彼は結婚は、少なくとも今はしてないと思うけど…」
「ですよね。昔はしてたのか…?」
「あの人、昔は色々やんちゃしてたみたいだから」
「や、やんちゃしてたんですか」
「詳しいことは知らないけれど、もしかしたら何度も離婚を繰り返すダメ男だったり、二股三股お手の物な不倫男だったかもしれないわね」
「うわ…可能性を完全に否定できないのが怖いです」
「敬慈ならやりかねない」
「あらら、人望がないのね。でも確かに、知らない方がいいことって、あるものよ」
にこり、彼女は笑う。
「…三好さんに笑顔で言われると説得力がありますね…」
「それでも知りたいと思えたら、それはそれで素敵なことかもしれないけどね?」
「…少なくとも私は今ので大分知りたい気持ちが失せました…」
「あら。悪いことしたかしら」
「いえ…」