安城糸音、平成最期の夏休み
色くんに彼女ができた。私とは全くタイプの違う、ぼんやりとした、優しげな子。
(…………)
手にした鎖がちゃりと鳴る。
あの日、『特別』になってしまった色くんと私が家に帰った日からずっと、おじいちゃんには会えていない。その日私は安城家の子になった。
ずっと二人で、『秘密』にしたまま生きていくのだと思っていた。ずっと、二人で。
(そうじゃ、なかった)
覚えていない色くんには、私は『お姉ちゃん』以外の何者でもなかった。
ぽたり、流した覚えのない涙が目の前の地面に落ちる。
雨だ。ひどい雨が、降り始めている。
──だったら私も、そう、なりたい。
『お姉ちゃん』以外の私なんて、忘れてしまいたい。
(……ごめん、おじいちゃん──)
灰色の碑の下に、色くんの骨の上に、白銀の鎖を置き去りに。
大人になった少女が走り去るのを、白い影はただ悲しげに見つめていた。