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安城糸音、平成最期の夏休み

地面に叩きつけられた身体は、手の施しようもないほど壊れてしまっていて。
私はほとんど一からそれを作り直してやるしかなかった。
人の枠を超えるほどに、丈夫な体を作ってやるしか。
(それが君の運命をどんなに歪めてしまうとしても)
それでもやはり、生きていてほしかったんだ。
私と、…彼女のために。






雨が降っている。
黒い傘は樹々の間を縫って、とうとう無機質な石碑の前に辿り着く。

「…君も、来たのかい」
「『おじいちゃん』」
すっかり背も伸びて大人らしくなった彼は、それでも振り返った顔にどこかあの頃の面影を残していて。
「…色人」

そんな顔をしないでほしい。君が私を忘れてしまったのは、君のせいでは決してない。
思い出さない方がいい記憶を鎖と一緒に取り替えた、私の責任なんだから。

「…ごめん、おじいちゃ…」
「君が謝ることは何ひとつないよ」
雨の中二人向き直る。私より背が高くなった君が、ここまで成長してくれて本当に良かったと思う。

「…何か、相談があってきたんだろう?」

やや間をおいて頷いたその黒い瞳は、大人の覚悟を映し出して。

「姉さん…糸音姉さんのことで…」

彼が手にした鎖が、ちゃりと鳴る。
「これを…預かって、ほしいんだ」

そう言って彼は悲しそうな、けれど曇りのない瞳で私を見た。
(…ああ)

その瞳がどうか、どうかいつまでも、曇らないように。

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