指輪のはなし
「…結婚されてるんですか?」
信じられない、といった感情を全力で前面に出され、さすがの俺も少し悲しい気持ちになる。
「…そんな力いっぱい馬鹿な、みたいな顔をしなくてもいいと思うんだが」
「いえ、すみません…少々衝撃が…」
「これは魔除けみたいなもんだよ。本物じゃない」
適当なことを言いながら指輪を嵌めた手をひらひらさせてみても、彼女に納得した様子はない。
(まあ、適当だからなあ)
「…言い寄られるんですか?」
「このナルシストが、みたいな顔もやめてほしい悲しいから」
「いえ、すみません…説得力が…」
「ひどいな!まあ全部嘘なんだが!」
「やっぱり嘘じゃないですか!結局何なんですか!」
彼女の中にはやはり優秀なツッコミの血が流れているらしい。
子犬のような瞳で、こちらをまっすぐ見つめて吠えている。
きゃんきゃんといった擬音まで聞こえてきそうだ。
(元気でよろしい)
「何だと思う?」
「え?」
意外な質問だったのか、固まった後素直に考え始める彼女はやはり小動物に似ていて、何というか微笑ましい。
「…いえ、普通に考えれば結婚されてる…んですよ、ね…?」
「君には推理力を磨いてほしいからな、答えは保留にしておこうか」
そう言って、笑ってみせればうまくまとまるかとも思ったんだが。
「…それは解く価値のある謎なんですか?」
「厳しいなー今までで一番厳しい反応だなー」
子犬にしては重い一撃が、俺の胸を軽~く抉っていったのだった。
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