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──な部屋

・この部屋から自力で出ることはできない仕様となっております。ご了承ください。
・性行為の確認が取れ次第、表のドアが開く仕組みとなっております。
・監視カメラは仕掛けておりません。盗聴器のみですので、安心してお楽しみください。


自力ではここから出られない、とは先ほどの不気味なカードにも確かに書いてあった。
その先の項目のことも含め、彼女に見せるべきだろうか。

「…大分落ち着いたみたいやな」
「何とかね…いつまでも動揺してるわけにはいかないもの」
そちらを見やれば、まだ少し震えてはいるが彼女も平常心を取り戻しつつあるようだ。
命綱のように握っていたスマホから目を離し、廊下の先に目を向ける余裕も出てきたらしい。
「ほな、とりあえず見て回りましょか」
「…そうね。何の目的もなく閉じ込めた、ってことはないだろうし」
さりげなく玄関のクローゼットを避け、先の部屋へと案内する。
彼女と二手に分かれて、改めて部屋全体を確認することにした。

玄関を抜けると流しとコンロ、冷蔵庫のキッチンスペースがあり、その横がそのまま廊下で洗面所とワンルームに繋がっている。
一般的なマンションの間取りだ。
肝心のワンルームにはテレビとソファ、そして奥にはダブルベッドが鎮座している。
妨害電波のせいか、テレビはブルースクリーンが映るのみだが。
(デザインの趣味は合うんやけどなあ)
青を基調としたベッドとソファは正直なところ結構気に入ったのだが、ベッド下を覗いてそれどころではないのを思い知った。
未開封の、コンドームが一箱。
そっと奥に押し込め見なかったことにする。

結局他にはどこの窓ガラスも防弾加工、その奥の雨戸もしっかりと閉め切られていることくらいしか分からなかった。
時間の経過が分かりづらいのが気になる。
(部屋の時計は合っとるようやけど)
腕時計を見れば、この部屋に入ってからすでに2時間ほど経過していた。

(…選択肢が狭まってきたな)
このままではまさか、本当に彼女を。

「何ぼんやりしてるの?」
後ろからかかった声に振り向けば、黒い猫耳がこちらを見ている。
「あんた何歳やったっけ」
「十七だけど。それよりちょっと、来て」
手振りで示す彼女は何か見つけたのだろうか。
素直に後を付いて行けば、彼女は服のまま浴室に入ってしまう。
「ちょ、お嬢さん?」
指で静かに、のサインを出され口をつぐめば、袖口をぐいっと引かれて俺まで浴室に引っ張り込まれた。
浴室は白いユニットバスで、ガラスの仕切りが小洒落てはいるがやはり狭く、二人で入ればぎゅうぎゅうだ。
まだ状況が読めない俺の側で、彼女はシャワーを湯船の中に入れ、蛇口をひねる。
水音が部屋に響いて煩い。
「…盗聴防止」
やっと彼女が口を開いた。
「…ああ?盗聴されとるんです?」
とぼけて見せれば、彼女は皮肉そうに笑う。
「…読んだけど、これ」
その手には、例のカードがあった。

(…流石に隠し方が雑すぎたか)
俺が色々探している間に、彼女もそれなりに働いていたようだ。
「…よく見つけましたな」
「やっぱりあなたが隠したのね。置いてある場所が明らかにおかしかったし、あなたの様子も変なんだもの」
「変?どこが?」
全く自覚していなかった。
「いつももっと遠慮がないでしょ…まあ、それより問題はこっち」
カードをひらひらさせながら、猫耳の少女は問う。
「どうするの?私は別に、構わないけど」
言い放って、にやりと笑った。

(こんガキャ)
俺が手を出せないのを、知っているのだ。

「18歳未満の青少年との性行為は条例違反ですわ。あんたが許しても世間が許さん」
「恋愛関係なら構わないんでしょ?」
「あんたと俺は恋人か?」
「違うわね」
当然の事実を、当然のように口にする。
「別に、バレなきゃ良いんでしょ」
「そりゃ確実に無理や。…ともかくこれで犯人の意図がひとつ、はっきりしたな」
「…あなたをどうしても社会的に抹殺したいみたいね。心当たりある?」
「さあな…俺に恩がある奴ならともかく、恨みがある奴は心当たりないけどな」
「へえ」
彼女は全く本気にしていないようだ。
繋ぐ言葉が見つからず、しばし沈黙が流れた。
シャワーの音がやけに響いている。

「…盗聴器の場所とか、分かるか?」
「…ざっくりとなら」
そう言って彼女が出したのは手書きの間取り図。
ボールペンで書かれた居間の二箇所、キッチンの裏と洗面所に赤いバツ印が付いていた。
「この家はそんなに広くないから、お互いの干渉を考えて感度は低めに設定してあるはず。多分浴室でシャワーでも使ってれば声までは聞こえないと思う」
「…なるほど、上出来やな。どうやって見つけたん?」
「機械音で分かる」
「え?」
「だから、機械音」
「………」
本気で言っているらしい。
「…ほぼ動物やな」
「人は立派な動物よ」
猫と一緒、と彼女は笑う。
無駄に意味深だ。

「…とりあえず込み入った話はここで、ってことやな」
「多分、同じ方法で玄関も使えると思うけど…それはまた追い追い…そうね、三日後までに決めましょ」
「そりゃ…そうやな、三日後までには決めんと」
そこまでの長丁場になるのがいとも簡単に予想できて、乾いた笑いが漏れた。

彼女が弄ぶ、カードの最終項。
その項が示す期限までには、否が応でも決着をつけなければならないのだろう、きっと。


・48時間以内に何の行動も起こされない場合、厳正なる処置を行う場合があります。あらかじめご了承ください。
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