犬系王子と尾行演習
(…どうしよう、楽しい)
カフェのゆったりした椅子に座りながら、脳内ではショックの効果音が流れる。
(年下はタイプじゃないはずなんだけど…)
隣の青年…いや少年は、そんなことを考えている私にクリッターサンデーを買ってきてくれたところだ。
「スペースマウンテンのファストパス、間に合って良かったですね!すっかり忘れてました、不覚でした…!」
「間に合ったしいいですよ。それよりこれ…ありがとうございます」
「それですか?本当に美味しいんで、どうしても食べて欲しくて!」
彼はぱっとこちらを見て微笑む。
笑顔がキラッキラと目が痛むほど眩しい。
「ところで…ずっと思ってたんですけど、愛理さんって僕より年上ですよね?」
「え?…た、多分」
一体私とのこの差は何だろう…としみじみ考えていたら、突然そんなことを聞かれる。
「どうして僕に敬語なんですか?タメ口で、いいんですよ!」
「えっ」
(敬語とタメ口って、もっと慎重に切り替えるものじゃ?)
一瞬断ろうかなと思ったけど、肯定を疑わない彼は期待の眼差しでこちらを見ている。
(う…)
「…そ、それなら…それでも、いいかな」
「わあ、ありがとうございます!」
勢いに押されて言ってしまった。
(…まあいいか…)
へへ、と照れたような彼につられてこちらも笑顔になる。
何だか、異性として緊張するというわけでも急な誘いを不審に思うわけでもなく、真摯にもてなしてくれる彼を素直に可愛いと思い始めてしまっていた。
「…涼宮さんの方は、私に敬語のままなの?」
「年上の方ですから!」
(キリッと言い返された…)
「年上って言ったって、あまり変わらないんじゃ…?20歳くらいって言ってなかった?」
「あ…僕、実は少しだけ年齢、サバ読んでるんです。本当は18です」
「え、そうなんだ…?」
思わず彼をしげしげ眺める。
前から思ってはいたけれど、確かにその細い肩や身体の線は、成人した男性にはとても見えなかった。
「居酒屋ですし、色々と説明が大変なので…マスターにお願いして誤魔化してもらってるんです。マスター以外は殆どの人は知らないんですよ…今、愛理さんに教えちゃいましたけど」
「…いいの?」
「愛理さんですから」
内緒ですよ!と微笑まれて、少しだけ心臓が跳ねた。
(油断できない…)
ストライクゾーン外のはずの少年は、屈託無く微笑んでいる。
「そういえば、呼び方も下の名前でいいんですよ?」
「さすがにそれはちょっと…涼宮くん、くらいにしておこうかな」
「うーん、じゃあ一歩前進ってことにしておきます!」