犬系王子と尾行演習
「愛理さん、僕とデートしませんか!」
「いや、仕事中なのでお断りします」
ばっさり切られて、涼宮慕が崩れ落ちる。
その目の前で彼女がつまらぬものを斬ってしまった、みたいな顔をしてるのが面白い。
「むしろなんで休日に誘わなかったんだ?」
そばで敬慈が、パソコンをいじりながら楽しそうに聞く。
少年は床に崩れ落ちたまま答えた。
「マスターが全然シフト調整してくれなくて絶望的に日取りが合わないんです…!探偵社、ずっと暇そうですしもう平日でもいいかなって…!」
「合っても多分断りますけど…所長?さらっと馬鹿にされてますけど?」
敬慈は手を止め、考え込んだと思ったら、とんでもないことを言い出した。
「…いいんじゃないか?行ってみても」
「……仕事中ですよ?」
「暇なのは事実だし…これはあれだ、一種の恋愛相談だな。仕事だ仕事」
「…は?」
「所長命令だ!今日一日は慕くんと、パーっと遊べばいいと思うぞー」
「はああ?」
「所長さん…!ありがとうございます!」
「貴重な青春の1ページを楽しんでくれ」
「え、ちょっと、本気ですか…」
「愛理さんディズニーランドお好きですよね!僕ペアチケット持ってるんです!」
戸惑う秘書に、少年が畳み掛ける。
「えっ」
「早く行かないと混んじゃいますからね!さ!行きましょう!」
「ちょっ、着替えとか…」
「じゃあまずは愛理さんの家からですね!行ってきます!」
「行ってらっしゃい」
分かりやすく怯んだ彼女の手をさりげなくとって、彼はすごい速度で事務所を去っていった。
「冷静な判断力を失わせた隙に、迷わず弱点を狙う…やるなあ」
「そういえば最近ずっと行きたいって言ってたもんね。それにしても、敬慈にしては珍しいことをするのね」
「ん?そうか?」
「そんなに暇なの?」
「そんなに暇なんだなあ。さて、行くか…」
敬慈はいい笑顔で、スーツの上着を掴んで椅子から立ち上がる。
「久しぶりに、尾行演習だ」