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七夕記録


「いやあ、雨だな!」
「何で傘持ってないんですか!」
「そりゃ、事務所がすぐそこだからなあ」
日付の変わり目は、七夕と言えど人通りもまばらだ。
そんな中を二人で歩く俺たちは、はたから見ればありがちな酔っ払いカップルに見えることだろう。
「すぐそこって日和さんが先に鍵閉めて寝てるじゃないですか…なんで鍵持ってないんですか馬鹿じゃないの…」
「まあまあ駅まで相合傘くらい良いだろ?…君もしかして結構酔ってるな?」
「飲まなきゃやってらんないですよ…」
ひっく、としゃっくりを繰り返す部下は、思ったよりストレスがたまっているらしい。
労いの言葉を探したが全部逆効果になる可能性に思い当たり、口には出さなかった。

「…にしても、今年も織姫と彦星は会えないんだなあ、気の毒に」
「何歳なんですか」
「ひどい言われようだな…彼らの逢瀬に想いを馳せるのもロマンだろう?」
「ロマンとか言い出すなら短冊も書けばいいのに…」
「いや…叶わない願いはしない主義だし」
「そうなんですか?」
「だって、俺の願い事は確実に叶わないぞ?虚しいだけじゃないか」
「それはそうかもしれませんけど…」
「それでも君は願うかい?叶わないと知ってても」
「それでも願いますよ。多分ですけど」
「ふーん、そうか。そうだな…」
見上げれば厚く暗い雲の向こうに、今も満天の星空があるのだろう。

「じゃあ試しに、俺も願ってみようかなあ」
「何を願うんですか?」
「…口に出しちゃダメなんじゃなかったか?」
「……あ」
「酔ってるなあ…。家まで送ろうか?」
「結構です!」

…そう、結局口には出せない願いごと。
叶わないと知っていても。
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