いいこといけないこと
「雪、止まないですね」
「そうだなあ」
彼女の一言に窓から外を覗けば、ちらちらと粉雪が舞っている。
今頃駅の方は入場制限もかかる大混雑だというから気の毒だ。
「…帰りたいか?」
「いえ…帰りたければ帰ってますし。今夜は良いです」
「そうか」
残業からそのままずるずると二人で過ごしていたわけだが、泊まるとなればそれ相応の準備が必要だ。
(何か夜食あったかな、なければ買ってこないと)
一人なら食べずに済ますが今日はそうはいかない。
「とりあえずコンビニに行ってこよう。留守番よろしく」
「はーい」
「…お酒も買ってきたんですか?」
「はは、つい。何もないと寂しいだろ」
「ふーん…」
「…何だ?」
いえ別に、と返されるがどことなく様子が妙だ。
(…まあ良いか)
それより支度を早く済ませて、のんびりしよう。
「雪の時に誰かいるのは良いな」
「そうですか?」
パックのサラダの隣で、グラスに赤ワインを注ぎながら笑う。
「一人だと部屋も寒いだろ。恋亜もいないし…」
「…まあ、いないから来たんですけど」
「そうなのか?」
「…私も一人じゃ寒いですから…」
「だろうな。こういう時はこたつに限るよなー」
「何かじじくさいですよ」
「ひどいな…」
しかし笑いながらもその一言が多少気になる自分もいて、恋人がいるというのはこういうことかと何とも言えない不思議さを感じる。
掛布団のぼろさなど、彼女の目があって初めて気になってくるものだから不思議だ。
勿論食事が始まってしまえばそんなことは忘れ、適当な話をしているうちに時間は過ぎていくのだが。
外の雪はますます酷くなっているようだ。
(湯がすぐ冷えるなあ)
寒さを実感していると、皿を洗っていた彼女がちょうどくしゃみをした。
「さっき風呂は洗ったから好きに入って良いぞー」
「ありがとうございます…」
「ん?何だ?」
「えーと…」
「…俺何か忘れてるか?」
「忘れてるかって言ったら忘れてますけど。先月立て替えた経費は5000円です」
「そうか、悪かった」
(…何か違うな)
さっきからもだもだされているのは分かるんだが、肝心の彼女の言いたいことが分からない。
それはそれとして、とりあえず財布を出して五千円札を探す。
「これで大丈夫だよな。あとで帳簿に…」
「あの。…いいこと、しませんか?」
視線を向ければ顔を染めた彼女が、何か握りしめて上目遣いでこちらを見ている。
ひらひらと、持っていた札が手のひらから落ちた。
「…あ、いや、すまん」
何かよく分からないことを言われたし見た気がするが多分間違いなく気のせいだろう。
慌てて札を拾いながら現実逃避に走ってみるが上手くいかない。
「…あの…」
間違いなく、目の前の彼女は気分を害したはずだ。
それでもその手に避妊具を握ったまま、しゃがみ込んだ俺に詰め寄ってくる。
「無視はないんじゃないですか…」
「いや悪くない、全然悪くないんだがちょっ…そういうのは…!」
「…何で私より恥ずかしがってるんですか!」
まともに顔が見れない。
決して嫌なわけではない、むしろ心のボルテージは上がりっぱなしなんだがその手の主張にはどうしても顔と身体がついていかない。
「いやほら、年頃の娘があの…」
「…私達初めてじゃないですよね…?ていうかさっきそういう雰囲気でしたよね…」
「分からない!分からないんだよ!悪かった!」
「…とりあえずこっち見てください」
その声があまりに真剣で、手で隠していた顔を、何とか上げる。
互いに真っ赤な顔を晒して向き合えば、もう言い訳は効かない。
「ごめん…してもいいか?…いけないこと」
恐る恐る抱き寄せて、囁く。
「…私のこと好きですか」
「ああ、勿論」
「じゃあそれは、いいこと、ですよ」
ああ、そう言って耳元で笑う君を今すぐ滅茶苦茶に抱きたい。
「そうだなあ」
彼女の一言に窓から外を覗けば、ちらちらと粉雪が舞っている。
今頃駅の方は入場制限もかかる大混雑だというから気の毒だ。
「…帰りたいか?」
「いえ…帰りたければ帰ってますし。今夜は良いです」
「そうか」
残業からそのままずるずると二人で過ごしていたわけだが、泊まるとなればそれ相応の準備が必要だ。
(何か夜食あったかな、なければ買ってこないと)
一人なら食べずに済ますが今日はそうはいかない。
「とりあえずコンビニに行ってこよう。留守番よろしく」
「はーい」
「…お酒も買ってきたんですか?」
「はは、つい。何もないと寂しいだろ」
「ふーん…」
「…何だ?」
いえ別に、と返されるがどことなく様子が妙だ。
(…まあ良いか)
それより支度を早く済ませて、のんびりしよう。
「雪の時に誰かいるのは良いな」
「そうですか?」
パックのサラダの隣で、グラスに赤ワインを注ぎながら笑う。
「一人だと部屋も寒いだろ。恋亜もいないし…」
「…まあ、いないから来たんですけど」
「そうなのか?」
「…私も一人じゃ寒いですから…」
「だろうな。こういう時はこたつに限るよなー」
「何かじじくさいですよ」
「ひどいな…」
しかし笑いながらもその一言が多少気になる自分もいて、恋人がいるというのはこういうことかと何とも言えない不思議さを感じる。
掛布団のぼろさなど、彼女の目があって初めて気になってくるものだから不思議だ。
勿論食事が始まってしまえばそんなことは忘れ、適当な話をしているうちに時間は過ぎていくのだが。
外の雪はますます酷くなっているようだ。
(湯がすぐ冷えるなあ)
寒さを実感していると、皿を洗っていた彼女がちょうどくしゃみをした。
「さっき風呂は洗ったから好きに入って良いぞー」
「ありがとうございます…」
「ん?何だ?」
「えーと…」
「…俺何か忘れてるか?」
「忘れてるかって言ったら忘れてますけど。先月立て替えた経費は5000円です」
「そうか、悪かった」
(…何か違うな)
さっきからもだもだされているのは分かるんだが、肝心の彼女の言いたいことが分からない。
それはそれとして、とりあえず財布を出して五千円札を探す。
「これで大丈夫だよな。あとで帳簿に…」
「あの。…いいこと、しませんか?」
視線を向ければ顔を染めた彼女が、何か握りしめて上目遣いでこちらを見ている。
ひらひらと、持っていた札が手のひらから落ちた。
「…あ、いや、すまん」
何かよく分からないことを言われたし見た気がするが多分間違いなく気のせいだろう。
慌てて札を拾いながら現実逃避に走ってみるが上手くいかない。
「…あの…」
間違いなく、目の前の彼女は気分を害したはずだ。
それでもその手に避妊具を握ったまま、しゃがみ込んだ俺に詰め寄ってくる。
「無視はないんじゃないですか…」
「いや悪くない、全然悪くないんだがちょっ…そういうのは…!」
「…何で私より恥ずかしがってるんですか!」
まともに顔が見れない。
決して嫌なわけではない、むしろ心のボルテージは上がりっぱなしなんだがその手の主張にはどうしても顔と身体がついていかない。
「いやほら、年頃の娘があの…」
「…私達初めてじゃないですよね…?ていうかさっきそういう雰囲気でしたよね…」
「分からない!分からないんだよ!悪かった!」
「…とりあえずこっち見てください」
その声があまりに真剣で、手で隠していた顔を、何とか上げる。
互いに真っ赤な顔を晒して向き合えば、もう言い訳は効かない。
「ごめん…してもいいか?…いけないこと」
恐る恐る抱き寄せて、囁く。
「…私のこと好きですか」
「ああ、勿論」
「じゃあそれは、いいこと、ですよ」
ああ、そう言って耳元で笑う君を今すぐ滅茶苦茶に抱きたい。