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軋まないソファ

軋まないソファ。
あなたはさながら眠り姫のように、爆睡しているようで。

(いびきかいてないだけマシか…)

どうやら「練習」とはいかなそうだ。
その安らかな寝顔に多少の苛立ちすら覚えて、指先で軽く頰を突く。

「起きないんですか」

小声で問えば、小さな呻き声が答える。
(つつかれてるんだから当然か)
多分これ以上何かすれば起きるだろうけど、それはそれで何というか、バツが悪い。
そう思い指を引っ込めれば、彼の表情も寝息も元に戻る。
少しの罪悪感と次への期待を抱え、私も部屋へ戻ろうと思ったんだけれど。

呼び止められて、返そうとした踵が止まる。
夜中に呼ばれる名前は何故、こんなに鼓動を速くするのか。
二度目の呼びかけにすっかり顔が赤い気がする。
まあ暗くて見えないだろうけど。
「…熟睡してたんじゃ?」
「人の気配がすれば起きる」
「私でもですか」
「君なら尚更だ」
躊躇いなく伸ばされた腕の中に、抗えず潜り込む。
ソファはやはり軋まない。
(殆どベッドだよね)
抱きつかれたまた寝転んで、添い寝のような形に落ち着く。
「狭くないな」
「わざわざ大きいの買いましたし」
「…軋まないし、あまり醍醐味がないか?」
「まあ…」
広いのも軋まないのもソファの利点であって難点ではない。
別に構わないのに、彼は何か全然違うことを考えたらしい。
ああ、こうすれば良いんだよな。
彼はひとつ呟いて、思いっきりソファに手をつく。
さすがに音を立てて軋むソファと、床ドンされた形で固まる私。
おそるおそるそちらを見れば彼は珍しく、悪戯な笑みを浮かべて。

「つまり、音がするほど大きく動かせば良いわけだ」

そう言うが早いか、私に静かに口付けた。
彼も私も初心者で、つまり大してキスが上手いわけではなくて、しかしとにかく長くて。
酸欠で暴れるようにして腕の拘束を解けば、なるほどソファは軋んでいるけど。
そうじゃない、と言う余裕もなくぐったりした私に、頬を撫でる手はあくまで優しいのに。
入れてはいけないスイッチを入れてしまったのか。

「…たしかに。楽しいかもしれないな、これ」
「何が…!?」
「君を乱すのが」

私の服に手をかけ、見たことのない顔で笑う彼。
体勢を立て直す前にまたペースを狂わされて、混乱と快楽に段々頭の中が痺れてくる。
不規則に揺れるソファの音が響く。
混濁する意識下で、彼の体温だけがはっきり感じられた。


次の日飼い猫から騒音の苦情がきたり、しばらく彼女が部屋に寄り付かなくなったりするのを彼はまだ知らない。
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