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夕闇の橋

彼女は雪のような、真っ白な髪をしていた。


「久しぶりね、シオン。元気そうで何より」

しばらくの間行方不明だった彼女が出し抜けに目の前に現れたのは、四月の朝。
思わず駆け寄って抱きしめれば、微かに匂う百合の香り。
白銀に染めた髪が揺れる。
「どこ行ってたの…連絡もないから心配したでしょ」
「いつものことじゃない、そんなの」
「最近頻度が増えてるの分かってる?本当に心配してるの」
「ありがとう。大丈夫よ、私も仲間も逃げ足が速いもの」
「もう…」
言い放つその顔は自信に満ちていた。
今までその言葉を裏付けるような経験をたくさんしてきたから、その日だっていつも通り信じたけれど。

「…本当にありがとう、いつも。シオンには助けられてばかり」
「何急に…死亡フラグみたいで怖いからやめてよ」
「あはは、確かにね。私は大丈夫、それより面白いものを見つけたのよ」
「何?」
「今度紹介するね。私もとうとう『彼氏』ってものを作ってみたから」

そこであたたかな記憶は途切れている。
多分その後色々と言い合ったはずだけど、そちらは思い出したくもない記憶だ。


回想から意識を戻せば、夕闇の橋の上、今一番会いたくない男と二人きり。

「顔色が悪いな…機嫌も悪そうだ」
「…あんたのせいよ。分かってるでしょう」
「もちろん。…本当にすまない」
「そう思うなら死んで詫びてよ」

自分でも驚くほど冷たい声だった。
少しの沈黙を置いて、彼は答える。

「すまない。まだ俺は死ねない」
「知ってるわよ…でも、許さないから」
「それは、助かる」
彼はあくまで笑顔で、でも目は合わせようとしない。
足元の橋を見つめて、まるで吐き捨てるように語る。
「誰かに憎まれていないと、気が狂いそうなんだ」


黙り込む間に、橋の下の湖から、白い鳥が一斉に飛び去る。
夕焼けに白い羽根が染まってとても美しくて。
(ああ、彼女と見れたら良かったのに)
そう、決してこの男ではなく。
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