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幽霊



「おーばーけー」

「…ココアか…やめてくれないか?」
死んでいるのかと思って声をかけたら、生きていた。



椅子にもたれていた背が一瞬びくりと飛び上がって、こちらを見ないまま少し不機嫌な声が返ってくる。
回りこんで覗き込めば、少し眉をしかめていた。
「寝てるのかと思った。驚いてる敬慈を見るのは久しぶり」
「死角からいきなり囁かれたら誰でも驚くだろう…」
素直な感想を述べると、彼はますます気まずそうな顔をする。
全体的に珍しい。
「…何で楽しそうなんだ?」
「さあ。…前に敬慈は幽霊が苦手って言ってたけど」
「うん」
「全然そんな風には見えない」
「そうか?苦手だよ?」
敬慈の座る椅子が、ぎしっと軋んだ。
そう言う彼はあくまでけろっとしている様子だけれど、本当にけろっとしているのか、はたまた嘘をついているのか。
私には分からない。
「目に見えないものは信じないんでしょ?」
「神様以外はね」
「幽霊は?」
「信じていないよ」
「なのに怖いの?」
「そういうことってあるだろう?」
そう言う彼はやっぱり笑っている。
本気には見えない。
「…私には分からない。けど幽霊はね」
人には見えない、虚空を見つめる眼差しで。
「猫の目には、視えるのよ」

「…見えないさ。君には」
私から目をそらして、そう答えた敬慈は、笑っていなかった。




「…さて、冷や汗もかいたことだし、シャワーでも浴びてくるよ」
「シャンプー中の死角には気をつけて」
「…やっぱやめようかな…」

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