小鳥遊ことりと白沢翔子
小鳥遊ことりという生徒がいる。容姿端麗、成績優秀。才色兼備を地で行く彼女には、美点と同じくらい欠点がある。
「トビコちゃ〜〜ん! お昼食べよ!」
「だ! か! ら! 私の名前はトビコじゃなくてショウコですってば、小鳥遊先輩」
欠点その1。人の名前を間違えたまま修正しない。
「私はトビコの方が可愛いと思うんだけどな〜。お寿司っぽくて」
「それ、もしかしてとびっこのこと言ってます? 私可愛さにおいて寿司と同列に語られたくないんですけど」
欠点その2。例えと価値観が独特。
「あ! トビコちゃんの玉子焼き美味しそう! 食べていい?」
「別にいいですけど、さっきまでの話どこに行ったんすか」
欠点その3。究極のマイペース。
でも、そんな欠点がちゃちに見えるくらい、彼女には大きな欠点がある。
「うん、やっぱりトビコちゃんの玉子焼き美味しかった! 砂糖と塩の加減が絶妙だよね」
「この人私の玉子焼き完食しやがった……」
人のおかずを残さず食べ尽くすところ? 違う。
「ごめんごめん。代わりに私の野菜炒めあげるね」
「サラッと残飯処理させないでください。どうせまた醤油とコーラ間違えたんでしょ」
とんでもない天然ボケなところ? 違う。
「ばれちゃったか〜」
「バレないと思ってたんですか?」
悪だくみがバレても全然悪びれないところ? 違う。
私、白沢翔子が知っている、小鳥遊ことりの最悪な欠点。それは ________
「……トビコちゃん、ずっと思ってたんだけど、私やっぱり箱根で死のうと思う」
「やっぱりの意味がわからないし、急すぎると思うんですけど、そろそろ私に自殺の相談すんのやめてくれません?」
____ネガティブかつポジティブな『自殺志願者』だ、ということである。……ついでにその自殺に他人を巻き込もうとしてくるのも追加で。
「私、箱根の温泉で湯けむり殺人っぽく死にたい! んでトビコちゃんにミステリー小説っぽく謎解きしてもらうの」
「謎解きも何も先輩の自殺じゃないですか。事件解決してますよ、初っ端から」
「そこはまあ、どうにかして」
「一番重要なとこ雑だな」
「えへへー」
「褒めてないですよ」
異様に話が通じない先輩にうんざりしつつ、もうほとんど残ってない自分のお弁当箱に目をやると、なんと唐揚げがひとつ増えていた。
「……この唐揚げ、先輩のですよね」
「うん」
「これもなんか失敗したんすか」
「失礼な! 私お手製の美味しい唐揚げだよ」
箸で持ち上げてしげしげと眺めると、確かにどこも焦げてないし、みるからに美味しそうな唐揚げだ。
「作った? レンジでチンしただけじゃなく?」
「トビコちゃん、ときどき私に驚くほど信用がないよね」
「普段の行いを1から10まで全部見返してから言ってください。ていうか、これホントに先輩の手作りなんですか?」
「だからそうだって! 唐揚げ頑張って作れるようにしたんだよ!」
騒ぐ先輩を尻目に唐揚げを口に放り込むと、甘くもなく苦くもなく辛くもなく酸っぱくもない、ちゃんとした唐揚げの味がした。
「美味しい……」
「でしょ」
「これを先輩が作ったなんて、にわかには信じがたい……」
「そろそろ信用して!? これ私が作ったから!」
しかし、この間食べさせられた劇的にまずい野菜炒めを思い出すと、本当に信じがたいのだ。
「唐揚げ作れるようにめっちゃ練習したもん! ホントにつくったんだもん……」
「わかりました、わかりましたよ。信じますから」
「やっと信じてくれた」
「そんな涙目で言われたら信じるしかないじゃないですか……」
すっかり元の調子に戻った先輩は、「今はカレー作れるようにしてるの!」と私によくわからない報告をしてきた。
……唐揚げが作れるならカレーなんかすぐだと思うが、先輩曰く意外と難しいらしい。よくわからない。
「トビコちゃ〜〜ん! お昼食べよ!」
「だ! か! ら! 私の名前はトビコじゃなくてショウコですってば、小鳥遊先輩」
欠点その1。人の名前を間違えたまま修正しない。
「私はトビコの方が可愛いと思うんだけどな〜。お寿司っぽくて」
「それ、もしかしてとびっこのこと言ってます? 私可愛さにおいて寿司と同列に語られたくないんですけど」
欠点その2。例えと価値観が独特。
「あ! トビコちゃんの玉子焼き美味しそう! 食べていい?」
「別にいいですけど、さっきまでの話どこに行ったんすか」
欠点その3。究極のマイペース。
でも、そんな欠点がちゃちに見えるくらい、彼女には大きな欠点がある。
「うん、やっぱりトビコちゃんの玉子焼き美味しかった! 砂糖と塩の加減が絶妙だよね」
「この人私の玉子焼き完食しやがった……」
人のおかずを残さず食べ尽くすところ? 違う。
「ごめんごめん。代わりに私の野菜炒めあげるね」
「サラッと残飯処理させないでください。どうせまた醤油とコーラ間違えたんでしょ」
とんでもない天然ボケなところ? 違う。
「ばれちゃったか〜」
「バレないと思ってたんですか?」
悪だくみがバレても全然悪びれないところ? 違う。
私、白沢翔子が知っている、小鳥遊ことりの最悪な欠点。それは ________
「……トビコちゃん、ずっと思ってたんだけど、私やっぱり箱根で死のうと思う」
「やっぱりの意味がわからないし、急すぎると思うんですけど、そろそろ私に自殺の相談すんのやめてくれません?」
____ネガティブかつポジティブな『自殺志願者』だ、ということである。……ついでにその自殺に他人を巻き込もうとしてくるのも追加で。
「私、箱根の温泉で湯けむり殺人っぽく死にたい! んでトビコちゃんにミステリー小説っぽく謎解きしてもらうの」
「謎解きも何も先輩の自殺じゃないですか。事件解決してますよ、初っ端から」
「そこはまあ、どうにかして」
「一番重要なとこ雑だな」
「えへへー」
「褒めてないですよ」
異様に話が通じない先輩にうんざりしつつ、もうほとんど残ってない自分のお弁当箱に目をやると、なんと唐揚げがひとつ増えていた。
「……この唐揚げ、先輩のですよね」
「うん」
「これもなんか失敗したんすか」
「失礼な! 私お手製の美味しい唐揚げだよ」
箸で持ち上げてしげしげと眺めると、確かにどこも焦げてないし、みるからに美味しそうな唐揚げだ。
「作った? レンジでチンしただけじゃなく?」
「トビコちゃん、ときどき私に驚くほど信用がないよね」
「普段の行いを1から10まで全部見返してから言ってください。ていうか、これホントに先輩の手作りなんですか?」
「だからそうだって! 唐揚げ頑張って作れるようにしたんだよ!」
騒ぐ先輩を尻目に唐揚げを口に放り込むと、甘くもなく苦くもなく辛くもなく酸っぱくもない、ちゃんとした唐揚げの味がした。
「美味しい……」
「でしょ」
「これを先輩が作ったなんて、にわかには信じがたい……」
「そろそろ信用して!? これ私が作ったから!」
しかし、この間食べさせられた劇的にまずい野菜炒めを思い出すと、本当に信じがたいのだ。
「唐揚げ作れるようにめっちゃ練習したもん! ホントにつくったんだもん……」
「わかりました、わかりましたよ。信じますから」
「やっと信じてくれた」
「そんな涙目で言われたら信じるしかないじゃないですか……」
すっかり元の調子に戻った先輩は、「今はカレー作れるようにしてるの!」と私によくわからない報告をしてきた。
……唐揚げが作れるならカレーなんかすぐだと思うが、先輩曰く意外と難しいらしい。よくわからない。
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