小さな恋の物語
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身体にまとわりつくような暑さが私をおそっていた。
今夜はことさら人の多いアレクサンドリアの城下町。
人々の熱気も手伝っての温度だろう。
そう分かりきってはいるけれど、暑いものは暑いのだ。
この暑さも相まって、もう待ち合わせの時刻が20分も過ぎているのに一向に現れる気配のない彼への苛立ちが募るばかりだった。
今日のアレクサンドリアでは夏祭りが開催されていた。
街には所狭しと屋台が軒を連ね、喧噪はとどまることを知らない。
プルート隊が忙しく駆け回っている姿がよく視界に入る。
ひとつ大きく溜息をつき、いったいどこで油を売っているのやら、と待ち合わせ相手に想いを馳せる。
この街では異様に顔が広い彼のことだ。
知り合いに捕まっているのだろうと思うけど…やっぱり遅い。
お詫びに何をおごってもらおうか…
「ナマエ!」
突如背後からかけられた声にびっくりして振り向いた。
そこには、20分間待ち続けた人物が。
「ジタン!遅い!」
「いやぁ、ごめんごめん。おっさんとクイナに捕まっちまって」
ほら、やっぱり。
片手にリンゴ飴を提げながら言うジタンに私は一喝した。
折角のデートなのに、なんだかモヤモヤしてしまう。
おっさんとはプルート隊の隊長、スタイナーのことだ。
部下が働いているというのにジタンにかまうところが彼らしいと思った。
ほら、お土産、と言ってリンゴ飴を差し出してくるジタンからそれを受け取る。
「…もう一つ、何か買って?」
「ん、もちろんさ」
にっ、と笑うジタンの笑顔。
私だけに向けられている、みんなの人気者の笑顔。
…20分なんて安いものだ。
「行こうか、ナマエ?」
黄色の尻尾が、ふわりと揺れた。
両手を頭の後ろで組みながら歩くジタンの左横で、リンゴ飴をほおばりながら歩く。
この左スペースは私の特等席。
「なぁナマエ、花火は8時からだっけ?」
「うん」
「それじゃあもう移動し始めないとなぁ」
そう言いながらジタンは私の手をとった。
迷子になるなよ?、と悪戯っぽく笑うジタン。
私はいつもこの笑顔は反則だと思う。
ジタンは私の手を引いて、花火がよく見える広場の方向とは違う道を歩き出す。
「こっち、違うんじゃない?」
「いや、こっちであってるぜ」
自信満々に歩き出す彼に連れられ、私は住宅街へ移動する。
しばらく歩くと大きな塔の前でジタンは歩を止めた。
「ここだ」
「ここ?」
私は訳が分からず首をかしげる。
どうみたってただの塔だ。
際立った特徴なんて、てっぺんについている大きな鐘くらい。
「ナマエ、ここを登るぜ」
「…え?」
塔へ入ると一つの梯子がかけられていた。
今にも壊れてしまいそうな、なんとも頼りない梯子だった。
てっきりしっかりした階段があるものとばかり思っていた私は絶句する。
「こ、これ登るの?」
「先に登れよ。もし落ちたって、俺が受け止めるからさ」
万事解決、とばかりに笑ってみせる彼に私は苦笑いを漏らす。
「あのね、私、スカートなんだけど」
結局ジタンには先に登ってもらって、私は後から一人でなんとか梯子を登りきった。
するとそこには。
「うわぁ…すごい景色…」
思わず見とれてしてしまうような絶景。
そこからはアレクサンドリアの街が一望できた。
「だろ?ビビが見つけたんだ」
よいしょ、と屋根に腰掛けながら、まるで自分の事のように自慢する彼。
そんなジタンの横顔はいつもより少しだけ寂しそうだった。
かける言葉を探していたら、その表情は消えてしまったのだけれど。
「お、花火始まった」
ヒュルルルル…、ドン。
鐘の下に座った彼と立ち尽くす私の横顔を花火の光が照らした。
私も隣に座って花火に見とれるジタンを見つめる。
どれほどの苦悩が、困難が。
あの旅で彼らを襲ったのかは私にはわからない。
だけど、隣で一緒に笑うことはできるよ。
だから。
私は君の隣にいつまでもいよう。
「ん、どうかしたのかい?」
視線を感じたジタンがこっちを向いた。
「ううん…ジタン、好きだよ」
ありったけの優しさをこめて、つぶやく。
言葉を持ち合わせない、不器用な私にはこれが精一杯だった。
そんな私に少し驚いて、だけどすぐに優しく微笑んで、
直後、私の視界一杯にジタンが広がった。
そして、私の口元で鳴ったリップ音。
「ナマエ、愛してる」
囁かれた愛の言葉。
それは花火の爆発音にかき消されて。
下にはあんなにたくさん人がいるのに、誰一人として聞こえていないんだろう。
けれど私だけに届いた愛の言葉は、真夏の夜空に響いた気がした。
花火の音に紛れて消えた
(君の笑顔は消さないように)
今夜はことさら人の多いアレクサンドリアの城下町。
人々の熱気も手伝っての温度だろう。
そう分かりきってはいるけれど、暑いものは暑いのだ。
この暑さも相まって、もう待ち合わせの時刻が20分も過ぎているのに一向に現れる気配のない彼への苛立ちが募るばかりだった。
今日のアレクサンドリアでは夏祭りが開催されていた。
街には所狭しと屋台が軒を連ね、喧噪はとどまることを知らない。
プルート隊が忙しく駆け回っている姿がよく視界に入る。
ひとつ大きく溜息をつき、いったいどこで油を売っているのやら、と待ち合わせ相手に想いを馳せる。
この街では異様に顔が広い彼のことだ。
知り合いに捕まっているのだろうと思うけど…やっぱり遅い。
お詫びに何をおごってもらおうか…
「ナマエ!」
突如背後からかけられた声にびっくりして振り向いた。
そこには、20分間待ち続けた人物が。
「ジタン!遅い!」
「いやぁ、ごめんごめん。おっさんとクイナに捕まっちまって」
ほら、やっぱり。
片手にリンゴ飴を提げながら言うジタンに私は一喝した。
折角のデートなのに、なんだかモヤモヤしてしまう。
おっさんとはプルート隊の隊長、スタイナーのことだ。
部下が働いているというのにジタンにかまうところが彼らしいと思った。
ほら、お土産、と言ってリンゴ飴を差し出してくるジタンからそれを受け取る。
「…もう一つ、何か買って?」
「ん、もちろんさ」
にっ、と笑うジタンの笑顔。
私だけに向けられている、みんなの人気者の笑顔。
…20分なんて安いものだ。
「行こうか、ナマエ?」
黄色の尻尾が、ふわりと揺れた。
両手を頭の後ろで組みながら歩くジタンの左横で、リンゴ飴をほおばりながら歩く。
この左スペースは私の特等席。
「なぁナマエ、花火は8時からだっけ?」
「うん」
「それじゃあもう移動し始めないとなぁ」
そう言いながらジタンは私の手をとった。
迷子になるなよ?、と悪戯っぽく笑うジタン。
私はいつもこの笑顔は反則だと思う。
ジタンは私の手を引いて、花火がよく見える広場の方向とは違う道を歩き出す。
「こっち、違うんじゃない?」
「いや、こっちであってるぜ」
自信満々に歩き出す彼に連れられ、私は住宅街へ移動する。
しばらく歩くと大きな塔の前でジタンは歩を止めた。
「ここだ」
「ここ?」
私は訳が分からず首をかしげる。
どうみたってただの塔だ。
際立った特徴なんて、てっぺんについている大きな鐘くらい。
「ナマエ、ここを登るぜ」
「…え?」
塔へ入ると一つの梯子がかけられていた。
今にも壊れてしまいそうな、なんとも頼りない梯子だった。
てっきりしっかりした階段があるものとばかり思っていた私は絶句する。
「こ、これ登るの?」
「先に登れよ。もし落ちたって、俺が受け止めるからさ」
万事解決、とばかりに笑ってみせる彼に私は苦笑いを漏らす。
「あのね、私、スカートなんだけど」
結局ジタンには先に登ってもらって、私は後から一人でなんとか梯子を登りきった。
するとそこには。
「うわぁ…すごい景色…」
思わず見とれてしてしまうような絶景。
そこからはアレクサンドリアの街が一望できた。
「だろ?ビビが見つけたんだ」
よいしょ、と屋根に腰掛けながら、まるで自分の事のように自慢する彼。
そんなジタンの横顔はいつもより少しだけ寂しそうだった。
かける言葉を探していたら、その表情は消えてしまったのだけれど。
「お、花火始まった」
ヒュルルルル…、ドン。
鐘の下に座った彼と立ち尽くす私の横顔を花火の光が照らした。
私も隣に座って花火に見とれるジタンを見つめる。
どれほどの苦悩が、困難が。
あの旅で彼らを襲ったのかは私にはわからない。
だけど、隣で一緒に笑うことはできるよ。
だから。
私は君の隣にいつまでもいよう。
「ん、どうかしたのかい?」
視線を感じたジタンがこっちを向いた。
「ううん…ジタン、好きだよ」
ありったけの優しさをこめて、つぶやく。
言葉を持ち合わせない、不器用な私にはこれが精一杯だった。
そんな私に少し驚いて、だけどすぐに優しく微笑んで、
直後、私の視界一杯にジタンが広がった。
そして、私の口元で鳴ったリップ音。
「ナマエ、愛してる」
囁かれた愛の言葉。
それは花火の爆発音にかき消されて。
下にはあんなにたくさん人がいるのに、誰一人として聞こえていないんだろう。
けれど私だけに届いた愛の言葉は、真夏の夜空に響いた気がした。
花火の音に紛れて消えた
(君の笑顔は消さないように)
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