01.午後0時のシンデレラ
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風の月7日。
最近の暖かい春の日差しのおかげで魔導院の桜は満開になっていた。
約束の時間はおひさまも真上に昇る12時。
左手の腕時計に視線を落とすと…やばいあと5分しかない。
いつもしかめっ面をしている彼の眉間にこれ以上シワを作る訳にはいかない。
あの顔をみて泣かない子供は朱雀中の何処を探してもいないだろうと(私の中で)評判なのだ。これを言うと彼のブリザガが飛んでくるからみんなには内緒なのだけれど。
若干の早歩きで待ち合わせをしている朱雀の噴水の前へ急いだ。
正面玄関を開ければ、噴水前に水色のマントを身に纏う彼の姿を見つけた。反射的に腕時計を確認する。3分前。セーフだ。
「やぁ、ずいぶん早いね?」
「…5分前行動は当たり前だ」
「まーたそんな堅いこと言って」
じとりと視線を感じる。一文字に結ばれた口元が「うるさい」と訴えてくる。
「いつも思うけれどクラサメは真面目すぎるのよ、同期内の真面目ランキングでは堂々の1位に輝いてるくらい!」
「あのな、そのランキング誰調べなんだ」
「もちろん私でーす」
「全くあてにならないな」
「そんな事ないですよーこのランキングの1位2位3位には全てクラサメがランクインしてるんだから!トップ3独占!ほら、もうこれは絶対真面目!」
「俺はいつから3人に分身したんだ」
途端に彼が眉間にシワを寄せた。うざい、とデカデカと顔に書いてある。
あーあ、折角の端正な顔が台無しだ。主に私のせいで。
「そんなだからいつまでたっても彼女できないんだよ?」
「…余計なお世話だ」
逡巡の後、捨て台詞と共に彼はそっぽをむいた。
今の間はなんだったんだろう。冗談が過ぎたのかな。
何かを考えるように彼は視線を落とした。その横顔になぜだかモヤモヤした。
「それで、用事ってなに?」
話の流れを変えようと、本題を切り出す。
私達は仲のいい同期として昼ご飯や講義を共にする事はあるけれど、それはいつも私が誘った場合だけ。同期、それ以上の関係でもそれ以下でもないのだ。
だからこうして彼からお誘いがあるなんて夢にも思わなかった。昨日の業後はついに私の構って攻撃が幸をそうしたのかと目を白黒させた。
それくらいには、ただの同期だった。
「…その…」
彼は上を向いたり下を向いたり落ち着かない。
……あれ。いつもの冷静沈着、目だけでクァールくらいなら一瞬で雪像にしてしまう彼はどこへやら、な落ち着きのなさ。
一体全体どうしたというのだろう、熱でもあるのか。一昨日のテストの結果が悪かったのだろうか。
…いや、そんなことは無いな。
「桜、きれいだな」
「は?」
思わず素っ頓狂な声が出てしまう。これだけためて桜の話?
「…それだけ?」
もっと重大なことかと思ったのに。なんだか心配して損した気がする。
今度は私が眉間にシワを寄せる番だ。この冗談はあまり面白くない。
「いや、そうじゃなくてだな」
「うん?」
静寂が満ちる。他の候補生の喧騒がやけに大きく聞こえる。
何を言い淀んでいるのだろう。いつもの彼とは違う姿。また新たな一面をみてしまった。
感情が溢れそうになる。それは私の心臓をきゅう、と締め付ける。
気付かないでいた感情。気付かないふりをしている感情。
「ナマエと会ったのは…一昨年の今頃だったな」
「あ…そうだね。あのときも桜が咲いてた」
そういえば私の退屈でたまらなかった人生は一昨年の桜の花と共に去っていったんだった。
ここでクラサメと、出逢ったから。
眉間にシワを寄せつつも、邪険にすることなく構ってくれるクラサメがいるから。
あなたの隣は居心地が良い。ずっとこの関係を続けることが出来るなら、ただの同期で十分だ。
そう思えるくらいには。
「あれから2年経つわけだが…ずっと言いたかったことがある」
心臓が早鐘を打つ。頭がまっしろになる。地面がぐらぐらと揺らぐ。
私が返事をする間もなく、クラサメは言葉を紡いだ。
「ずっと、好きだった。付き合ってくれないか」
最初、意味が分からなかった。ただの音の羅列にしか思えなかった。
だけど…目前に佇む真剣な面持ちが、嘘じゃないと訴えてくる。
──ただの同期だった。それ以上でも、それ以下でもなかった。
真っ直ぐな目がじっと私を見つめている。一文字に結んだ唇が私の返事を待っている。
──本当の気持ちに気付かないふりをしていた。この関係を続けられるなら、それでよかった。
そっか。なんだ。
おんなじ気持ちだったんだ。
そっか。
…そっか。
……そっかぁ。
「私も、大好きです」
午後0時のシンデレラ
(気付かないふりはもう終わり)
最近の暖かい春の日差しのおかげで魔導院の桜は満開になっていた。
約束の時間はおひさまも真上に昇る12時。
左手の腕時計に視線を落とすと…やばいあと5分しかない。
いつもしかめっ面をしている彼の眉間にこれ以上シワを作る訳にはいかない。
あの顔をみて泣かない子供は朱雀中の何処を探してもいないだろうと(私の中で)評判なのだ。これを言うと彼のブリザガが飛んでくるからみんなには内緒なのだけれど。
若干の早歩きで待ち合わせをしている朱雀の噴水の前へ急いだ。
正面玄関を開ければ、噴水前に水色のマントを身に纏う彼の姿を見つけた。反射的に腕時計を確認する。3分前。セーフだ。
「やぁ、ずいぶん早いね?」
「…5分前行動は当たり前だ」
「まーたそんな堅いこと言って」
じとりと視線を感じる。一文字に結ばれた口元が「うるさい」と訴えてくる。
「いつも思うけれどクラサメは真面目すぎるのよ、同期内の真面目ランキングでは堂々の1位に輝いてるくらい!」
「あのな、そのランキング誰調べなんだ」
「もちろん私でーす」
「全くあてにならないな」
「そんな事ないですよーこのランキングの1位2位3位には全てクラサメがランクインしてるんだから!トップ3独占!ほら、もうこれは絶対真面目!」
「俺はいつから3人に分身したんだ」
途端に彼が眉間にシワを寄せた。うざい、とデカデカと顔に書いてある。
あーあ、折角の端正な顔が台無しだ。主に私のせいで。
「そんなだからいつまでたっても彼女できないんだよ?」
「…余計なお世話だ」
逡巡の後、捨て台詞と共に彼はそっぽをむいた。
今の間はなんだったんだろう。冗談が過ぎたのかな。
何かを考えるように彼は視線を落とした。その横顔になぜだかモヤモヤした。
「それで、用事ってなに?」
話の流れを変えようと、本題を切り出す。
私達は仲のいい同期として昼ご飯や講義を共にする事はあるけれど、それはいつも私が誘った場合だけ。同期、それ以上の関係でもそれ以下でもないのだ。
だからこうして彼からお誘いがあるなんて夢にも思わなかった。昨日の業後はついに私の構って攻撃が幸をそうしたのかと目を白黒させた。
それくらいには、ただの同期だった。
「…その…」
彼は上を向いたり下を向いたり落ち着かない。
……あれ。いつもの冷静沈着、目だけでクァールくらいなら一瞬で雪像にしてしまう彼はどこへやら、な落ち着きのなさ。
一体全体どうしたというのだろう、熱でもあるのか。一昨日のテストの結果が悪かったのだろうか。
…いや、そんなことは無いな。
「桜、きれいだな」
「は?」
思わず素っ頓狂な声が出てしまう。これだけためて桜の話?
「…それだけ?」
もっと重大なことかと思ったのに。なんだか心配して損した気がする。
今度は私が眉間にシワを寄せる番だ。この冗談はあまり面白くない。
「いや、そうじゃなくてだな」
「うん?」
静寂が満ちる。他の候補生の喧騒がやけに大きく聞こえる。
何を言い淀んでいるのだろう。いつもの彼とは違う姿。また新たな一面をみてしまった。
感情が溢れそうになる。それは私の心臓をきゅう、と締め付ける。
気付かないでいた感情。気付かないふりをしている感情。
「ナマエと会ったのは…一昨年の今頃だったな」
「あ…そうだね。あのときも桜が咲いてた」
そういえば私の退屈でたまらなかった人生は一昨年の桜の花と共に去っていったんだった。
ここでクラサメと、出逢ったから。
眉間にシワを寄せつつも、邪険にすることなく構ってくれるクラサメがいるから。
あなたの隣は居心地が良い。ずっとこの関係を続けることが出来るなら、ただの同期で十分だ。
そう思えるくらいには。
「あれから2年経つわけだが…ずっと言いたかったことがある」
心臓が早鐘を打つ。頭がまっしろになる。地面がぐらぐらと揺らぐ。
私が返事をする間もなく、クラサメは言葉を紡いだ。
「ずっと、好きだった。付き合ってくれないか」
最初、意味が分からなかった。ただの音の羅列にしか思えなかった。
だけど…目前に佇む真剣な面持ちが、嘘じゃないと訴えてくる。
──ただの同期だった。それ以上でも、それ以下でもなかった。
真っ直ぐな目がじっと私を見つめている。一文字に結んだ唇が私の返事を待っている。
──本当の気持ちに気付かないふりをしていた。この関係を続けられるなら、それでよかった。
そっか。なんだ。
おんなじ気持ちだったんだ。
そっか。
…そっか。
……そっかぁ。
「私も、大好きです」
午後0時のシンデレラ
(気付かないふりはもう終わり)