03.面影、花笑み
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ビッグブリッジ突入作戦前夜。
生温い風がまるで死神の鎌ように首元を横切った。
私は作戦基地の一角に設けられたテントにもたれ、文字通り最後の夜をすごしていた。
数ヶ月前、0組の指揮隊長として、責任者として、軍令部長から下された命令を思い出す。恰幅の良い男性の前で謹んで受ける、と啖呵を切ったあの時だ。
任務は単純明快、秘匿大軍神の決死隊の指揮。
つまり、死に向かう候補生達を逃げないように奮い立たせ、その死に意味を持たせるような希望の言葉を投げかけ、生徒もろとも殉職しろという事だ。
命令を下したのは朱雀の脳とも言える八席のひとり、軍令部長スズヒサ・ヒガト。
候補生時代に軍事教官であった彼の講義を受けた事もあるが、昔から変わらないなと思った。
ああいう人なのだ。良く言えば抜け目がない、悪く言えば狡猾。
彼の脳内はおそらく、終戦後の権力争いへの憂慮で満たされているのであろう。
この戦争の功労者は間違いなく0組だ。終戦後の発言力も0組関係者のアレシア・アルラシアや私は必然的に強くなるだろう。
つまり、自分の立場が危うくなるその前に邪魔者を合法的に消しておきたい、という事だ。
命を賭して戦っている人間がいる一方で自身の保身とは。呆れて二の句も出ない。
星が瞬く。
風が一際強く吹いた。
任務を通達された時は特段取り乱すことは無かった。正直予想がついていたからだ。
上官となった自身の運命、と受け入れることも出来た。しかしさすがに前夜ともなると、26年間に、残していく者に、思いを馳せずにはいられないのだろうか。
…ナマエは補給係と言っていた。これまでにない大きな戦であるから断言は出来ないが、おそらく死ぬ事はないだろう。
ああ見えてやる時はやる奴だ。
10日前の、小さな願いをこぼす横顔を思い出す。
さよならは言わなかった。
出撃するとも告げなかった。
軍人である以上、常に死と隣り合わせである。それも覚悟していた。
自分の生に未練はなかった。
ただ私が居なくなれば誰がナマエを守るのだろうか。そう思うのは私のエゴだろうか。
カズサに託したモノがほんの少しでもナマエの支えとなるよう願う。
眠れずに夜を仰ぐ。
自分の無骨な手を引いていた小さくて柔らかい手が、恋しくて堪らない。
真黒な空では月だけが煌々と顔を出していた。
生温い風がまるで死神の鎌ように首元を横切った。
私は作戦基地の一角に設けられたテントにもたれ、文字通り最後の夜をすごしていた。
数ヶ月前、0組の指揮隊長として、責任者として、軍令部長から下された命令を思い出す。恰幅の良い男性の前で謹んで受ける、と啖呵を切ったあの時だ。
任務は単純明快、秘匿大軍神の決死隊の指揮。
つまり、死に向かう候補生達を逃げないように奮い立たせ、その死に意味を持たせるような希望の言葉を投げかけ、生徒もろとも殉職しろという事だ。
命令を下したのは朱雀の脳とも言える八席のひとり、軍令部長スズヒサ・ヒガト。
候補生時代に軍事教官であった彼の講義を受けた事もあるが、昔から変わらないなと思った。
ああいう人なのだ。良く言えば抜け目がない、悪く言えば狡猾。
彼の脳内はおそらく、終戦後の権力争いへの憂慮で満たされているのであろう。
この戦争の功労者は間違いなく0組だ。終戦後の発言力も0組関係者のアレシア・アルラシアや私は必然的に強くなるだろう。
つまり、自分の立場が危うくなるその前に邪魔者を合法的に消しておきたい、という事だ。
命を賭して戦っている人間がいる一方で自身の保身とは。呆れて二の句も出ない。
星が瞬く。
風が一際強く吹いた。
任務を通達された時は特段取り乱すことは無かった。正直予想がついていたからだ。
上官となった自身の運命、と受け入れることも出来た。しかしさすがに前夜ともなると、26年間に、残していく者に、思いを馳せずにはいられないのだろうか。
…ナマエは補給係と言っていた。これまでにない大きな戦であるから断言は出来ないが、おそらく死ぬ事はないだろう。
ああ見えてやる時はやる奴だ。
10日前の、小さな願いをこぼす横顔を思い出す。
さよならは言わなかった。
出撃するとも告げなかった。
軍人である以上、常に死と隣り合わせである。それも覚悟していた。
自分の生に未練はなかった。
ただ私が居なくなれば誰がナマエを守るのだろうか。そう思うのは私のエゴだろうか。
カズサに託したモノがほんの少しでもナマエの支えとなるよう願う。
眠れずに夜を仰ぐ。
自分の無骨な手を引いていた小さくて柔らかい手が、恋しくて堪らない。
真黒な空では月だけが煌々と顔を出していた。