7th.sparkling
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──ジタンさんが、倒れた。
その現実が重くのし掛かる。
心臓がうるさく音を立てている。歯の根はガタガタと音を立てる。そのくせ目の前はやけに鮮明で、これは夢じゃない、と嘲笑っているようだった。
ドラゴンが居なくなった広場にわらわらと人が戻ってくる。喧騒が近くなってくる。
私はどうしたらいい。
医術の心得もなく、白魔法もできない、頼れる誰かも居ない、頼り方も知らない私は。一体どうすれば。
どうすれば、目の前のこの人を助けられるの。
「やめて、お願い…連れて行かないで…ジタンさん…ジタン…さん!!」
視界が歪む。
情けないほどの涙と鼻声。
自分の無力さに反吐がでる。
こうなる事は分かっていた。全て、全て全て、私の甘さが引き起こした事。
責任も取れない、ちっぽけ私が。孤独に耐えかねて、無様に手を伸ばした所為で起こった悲劇。
「ジタンさん…ジタンさん…」
無力な私は手を取って、祈ることしかできない。
蚊の鳴くような小さく情けない声で。
「どうかお願い、死なないで…」
自分の軽率さを恨みながら。
「どうか、どうか…私の…大切な人…」
自己否定感に押し潰されながら。
「もうこれ以上、死なないで…」
「久しぶりにリンドブルムを訪れたが…この有様。どういうことじゃ?…のう、ジタン。少し見ぬ間に弛んだか?」
突如、頭上から声。
見上げると。
朱色の外套と帽子を身に付け、身の丈ほどの槍を携えた、ネズミ族の女性がそこにいた。
「あな…たは…?」
「私か?…フライヤ・クレセント。そこで情けなく伸びておる男のかつての仲間じゃ。そなたは?」
そう言って向けられた、エメラルドグリーンの瞳も。純白の長い睫毛も。その、所作も。
全てが美しい人だった。
「…ナマエと言います。あの、じ、ジタンさんは大、丈夫、なのでしょ、うか…」
嗚咽混じりに喋る私。
フライヤさんはそんな私を一瞥し、問題なかろう、こいつは頑丈な奴じゃ、と呟いた。
その横顔すら美しかった。
ずっと前。それこそ私がまだ幼子だった頃。
両親が"ブルメシア"という国があると教えてくれたことを、ふと思い出した。
そこには純白の毛並みを持つ、大層美しいネズミ族たちがいることも。
「とは言えこのままでは色々といかんな。商業区から一番近い診療所にでも運ぶかの」
フライヤさんは集まりつつある野次馬を見回しそう零すと、ジタンさんを軽々と抱き上げた。そのまま背に背負う。
なんて力。
「そなたはどうする?」
唐突に向けられるエメラルドグリーン。
「あっ…」
迷う。この人と…離れる覚悟が出来ていない。覚悟を決めないと、そうしないと、別れ難い。そう思う自分がいる事に驚いた。いつのまにかジタンさんは私の中で大きな存在になっていた。
けれど。このまま付いていくと。またジタンさんに不幸が、良くないことが、起きるのではないか。そんな考えが脳裏をよぎる。
そうだ、だからここで…
ぐ、と手を握りしめる。
「呆けているという事は迷っておるのか。ならば私の槍を持ってきてはくれぬか?」
さすがに男ひとりと槍を持つのは骨が折れる、とフライヤさんは言う。
「え、あ…分かりました」
思わずそう返事して、よろよろと立ち上がった。
この状況に、思いがけなく猶予ができたことに安堵している自分に気づいた。
もう、これで、最後にしよう。彼に会うのは。
送り届けて、無事を確認して。
そうしたら、さようならだ。
この道中で覚悟を決めよう。
受け取った槍は、想像以上に重かった。
その現実が重くのし掛かる。
心臓がうるさく音を立てている。歯の根はガタガタと音を立てる。そのくせ目の前はやけに鮮明で、これは夢じゃない、と嘲笑っているようだった。
ドラゴンが居なくなった広場にわらわらと人が戻ってくる。喧騒が近くなってくる。
私はどうしたらいい。
医術の心得もなく、白魔法もできない、頼れる誰かも居ない、頼り方も知らない私は。一体どうすれば。
どうすれば、目の前のこの人を助けられるの。
「やめて、お願い…連れて行かないで…ジタンさん…ジタン…さん!!」
視界が歪む。
情けないほどの涙と鼻声。
自分の無力さに反吐がでる。
こうなる事は分かっていた。全て、全て全て、私の甘さが引き起こした事。
責任も取れない、ちっぽけ私が。孤独に耐えかねて、無様に手を伸ばした所為で起こった悲劇。
「ジタンさん…ジタンさん…」
無力な私は手を取って、祈ることしかできない。
蚊の鳴くような小さく情けない声で。
「どうかお願い、死なないで…」
自分の軽率さを恨みながら。
「どうか、どうか…私の…大切な人…」
自己否定感に押し潰されながら。
「もうこれ以上、死なないで…」
「久しぶりにリンドブルムを訪れたが…この有様。どういうことじゃ?…のう、ジタン。少し見ぬ間に弛んだか?」
突如、頭上から声。
見上げると。
朱色の外套と帽子を身に付け、身の丈ほどの槍を携えた、ネズミ族の女性がそこにいた。
「あな…たは…?」
「私か?…フライヤ・クレセント。そこで情けなく伸びておる男のかつての仲間じゃ。そなたは?」
そう言って向けられた、エメラルドグリーンの瞳も。純白の長い睫毛も。その、所作も。
全てが美しい人だった。
「…ナマエと言います。あの、じ、ジタンさんは大、丈夫、なのでしょ、うか…」
嗚咽混じりに喋る私。
フライヤさんはそんな私を一瞥し、問題なかろう、こいつは頑丈な奴じゃ、と呟いた。
その横顔すら美しかった。
ずっと前。それこそ私がまだ幼子だった頃。
両親が"ブルメシア"という国があると教えてくれたことを、ふと思い出した。
そこには純白の毛並みを持つ、大層美しいネズミ族たちがいることも。
「とは言えこのままでは色々といかんな。商業区から一番近い診療所にでも運ぶかの」
フライヤさんは集まりつつある野次馬を見回しそう零すと、ジタンさんを軽々と抱き上げた。そのまま背に背負う。
なんて力。
「そなたはどうする?」
唐突に向けられるエメラルドグリーン。
「あっ…」
迷う。この人と…離れる覚悟が出来ていない。覚悟を決めないと、そうしないと、別れ難い。そう思う自分がいる事に驚いた。いつのまにかジタンさんは私の中で大きな存在になっていた。
けれど。このまま付いていくと。またジタンさんに不幸が、良くないことが、起きるのではないか。そんな考えが脳裏をよぎる。
そうだ、だからここで…
ぐ、と手を握りしめる。
「呆けているという事は迷っておるのか。ならば私の槍を持ってきてはくれぬか?」
さすがに男ひとりと槍を持つのは骨が折れる、とフライヤさんは言う。
「え、あ…分かりました」
思わずそう返事して、よろよろと立ち上がった。
この状況に、思いがけなく猶予ができたことに安堵している自分に気づいた。
もう、これで、最後にしよう。彼に会うのは。
送り届けて、無事を確認して。
そうしたら、さようならだ。
この道中で覚悟を決めよう。
受け取った槍は、想像以上に重かった。