10.視線の先
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「…なんじゃ、お主、海臭いな」
海都へ帰還し馴染みの商会へ素材を売りに来たところ、店主に鼻をつまみながら言われた。店内は狭いので、ひとりで来ている。
「え、海水浴びたからでしょうか」
自分ではわからないけど、ていうかパーティー全員そうなのかも。
「海水…?なら早めに武具の手入れをしなくてはな。ちゃちゃっと鑑定するから、ちと待っておれ」
「え?」
「え?じゃないだろう。…知らんのか?海水を浴びると鉄は錆びやすいんじゃぞ」
「え゛、なんでですか」
「理由は知らん」
店主は「海に出る事も有るくせに無知よの」とごちながらさっさと私が持ち込んだ素材を鑑定し終えると、お金と、布切れと手のひらサイズの何かの入れ物を渡してくれた。
「ほら、これは武具の錆止めあんど撥水クリームじゃ!使うが良い。まず解体した武具を真水で洗って、乾拭きしてからこのクリームを塗るんじゃ」
「いただいていいんですか!?ありがとうございます!」
頭を下げて店を出ようとすると、待て待て、と服の裾を掴まれた。店主は掌を私に見せてにんまりと笑っている。布切れとクリームのお代を請求しているらしい。相変わらず抜かりないよね。
私は宿に着くなり、裏庭の井戸へ走った。カスミとアネモネはさっさとお風呂に行ったが、私は、体の汚れよりも鎧と剣が気になるのだ。一応クジュラさんとアンドリューも鉄製の武器を使っているので、自分の得物のついでに私の鎧の手入れを買って出てくれた。神である。
「うわーん!!もう22階は行きたくないよぉ!」
井戸水を桶に汲んで来て、そこに布をつけて固く絞る。それで刀身を拭いていくのだ。鎧の方は解体して水にくぐらせ、表面だけ水を拭き取ってからとりあえずタオルの上に放置してる。
「ま、ショトカも見つけたから、落とし穴で濡れる事は無くなったしな」
「それにしても、希羽は虫が苦手なのか?」
「大の苦手です!思い出したくもないくらい…ぅぅ…」
あのおぞましいモンスターを思い浮かべてしまって、身震いしてしまった。本当は私だって早くお風呂に入りたい。アレの体液を少しだけ浴びてしまったのだ。
「そ、そうか。悪かったな」
「お?なんだ、虫を怖がってる希羽が可愛かったってか?クジュラさんってそういうステレオタイプな女が好きなわけ?」
「確かに怯える希羽も可愛かったが、別にそこが好みだとか言う訳ではない」
「じゃあどんな女がタイプ?っていや、愚問か。姫系だな、ロイヤルだ」
「別に。希羽が好きなだけだ」
「あの、2人とも、恥ずかしいので…やめて…」
「希羽のどこが好きなんだ?」
ちょっと本気でそういうのやめて、と口を開く前にクジュラさんが即答した。
「瞳が好きだ」
「ふ~ん。だってさ、希羽…お、固まってら」
……あれ?そういえば、随分と前から…敵対する前くらいから?もっと前?とにかく、よく目が合うなって思ってたんだけど。
私の方がクジュラさんを目で追っていたのはあるし、私が海市蜃楼のリーダーだから彼との会話も多くて、だから目が合うのかなって思ってんだけど。
そうじゃないの?ずっと、クジュラさんの方も私を、私の瞳を見ていたって事?そう言う事?
短剣を乾拭きしていた手を止めて、クジュラさんを見る。彼は少し微笑みながら、私の瞳を覗き込んでいた。顔が熱くなる。
「それって、いつから…?」
「…最初からかもしれない。初めて会った時、から」
「ずっとですか?」
「ああ、ずっと見ていた…」
「あ、ああっ!」
たまらなくなって顔を覆った。うーー恥ずかしい、嬉しい、好き!
「はー。イチャイチャしたいなら早く終わらせてさっさと部屋に行け~」
「はい…」
「素直だな」
クスッと笑うクジュラさんの顔はもう恥ずかしくて見られなかった。
この後、爆速で手入れを終わらせ、烏の行水で体を清めて、たっぷりイチャついたのは、言うまでもない。
/END.2024.10.14
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