10.視線の先
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「みんな。これ、やばい物らしいです」
商会で素材を売るついでに手に入れた短剣を鑑定してもらったのだが、私はその効果に思わず生唾を飲みこんだ。
「何だよもったいぶんなよ」
「ふふ、ふふふ…良いのかな?そんなこと言って…」
「え、こわ」
「『即死』効果が付いてるんだって」
「え、こわ」
「ねえねえ、これ、私が持ってても良い!?」
「え、こわ」
カスミが合計3回どん引いた。
「まあ、攻撃力無さそうだし、お前くらいしか装備出来ないだろうから持っとけよ」
「やった!」
「怖すぎるんだけど。クジュラ、アレいいの?」
「普段よりイキイキしてて可愛いんじゃないか?」
「あんた遠い目してるじゃん」
さて、その日はゆっくりと休息を取って、また翌る日。
「早速剣を装備してみました!」
ウキウキして、腰に下げた短剣の柄に手をやる。アンドリューに「危ねぇから戦闘以外で出すな」と怒られたのでしゅんとしつつ、迷宮を進んだ。
昨日と同じメンバーで、今日はそれぞれに糸を持たせてある。誰か1人でも逸れたら使う様に決めていた。
「てか希羽、使ってた剣は?買ったばかりでしょ」
「ん、持って来てはいるよ。今は背中に背負ってます」
「重くはないのか?」
「装備の重みは感じないタイプです」
「ああ、そう」
カスミとクジュラさんが顔を見合わせて、力無く首を振った。なんか仲良くない?この2人。
「おい、キノコがいるぞ」
アンドリューが顎をしゃくって一方を指した。短剣を抜きながらそちらを見ると、確かにキノコモンスターが2体、こちらには気づいていない様子で卵のモンスターを蹴って遊んでいる。
「ふふ、今からこの短剣の餌食になるとも知らずに…」
「その発言ギリギリ悪役だよ」
アネモネとクジュラさんは精神統一し、私はアネモネに予防の号令を掛ける。そしてアンドリューの雄叫びを合図に攻撃を始めた。
まずはアネモネが氷の占星術を発動して、キノコ1体を凍り付かせた。そこをアンドリューがハンマーで殴りかかり、氷ごと砕く。
カスミは炎を纏った拳の連打で卵を叩き割った。
私は走りながら今度はクジュラさんに予防の号令を掛けて、彼が斬りつけた方のキノコへ向かって短剣を突き立てた。その瞬間キノコはくったりと力を失って、そのまま絶命した。
全員が私の短剣へ注目している。私も自分の手に握られたそれを凝視する。
「な、なんか一瞬だったね?」
「すげぇ、即死ってマジで即死なんだな」
刺したという手応えを感じる前に絶命していたので、明らかに短剣の即死効果のおかげで倒せたのだろう。こんなに効果覿面だと思わなかったので少し身震いしながら、剣を鞘に納めた。
「…大丈夫か?少し顔色が悪いが」
クジュラさんに声を掛けられて、掠れた声で返事をする。
「眉唾物だと思っていたので…ちょっとびっくりしちゃって」
「そりゃ怖いよ。一瞬で命を奪えるなんて、強すぎるし」
怖い、とカスミが散々言っていた意味を今ようやく理解できた。冗談でもこれを誰かに向けたりしなくて良かった、これを使う前までの私ならやりかねないのがまた怖い。
しかし、迷宮探索にはとても有用だと思ったので携えたままにしておく。
ようやくマップの右半分が埋まって来たところで、分岐に当たった。少し進むとまた分岐で、これは、また迷路かな、なんて辟易していると分岐の通路の奥に居るヤバいのと目が合った。いや、そりゃもう目が合いまくった。何せそのヤバいのと言うのは、頭が…7つ有るドラゴンだったのだから。
全員無言で逃げる。とにかくドラゴンが居ない方の道へ走って進むと、また扉があったのでそこに入った。そこはいい感じの広さで、モンスターの気配も全く無い静かな部屋だったのでキャンプ地にちょうど良いかと思って少し腰を下ろして休憩を始めた。カスミがお茶を淹れて、携帯食料と共に配ってくれる。それらを一口ずつ口にしてから、アネモネが思い出したかの様に怯え出した。
「何アレ、何アレ」
「私、希羽がアレ倒すとか言い出したらどうしようかと思った」
「そこまで狂人じゃありませんけど」
「言い出しかねないけどな…」
「クジュラさんまで」
「俺もうヤダ」
「なんとか迂回して撒こう!おーっ!」
当たり前の解決策を出して、みんなを鼓舞する。もちろん誰も乗ってくれないので、しゅんとしながらお茶を啜った。ここでもう少し休憩する事にした。