10.視線の先
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しばらくして階下が賑わってきた。誰かが駆ける様な音と、悪魔の様な唸り声が響いてくる。
「クジュラさん!アンドリュー!」
クジュラさんがアンドリューを抱きかかえて階段を上がって来た。
「な、なに!?どう言う状況!?」
私が問うと、クジュラさんはアンドリューをゆっくりと地面に降ろし、そのまま自分も膝をついた。
「石化中の様だ」
「うわわ」
カスミが急いでアンドリューを診る。私もクジュラさんへ駆け寄って見ると、彼の体中にはたくさんの切り傷が付いていた。
「下に、羊の様な大型のモンスターが居た。なんとか応戦したが、奴の視線は石化を誘うらしい」
「石化……それで、この傷は…?」
「下の荊だ」
「アネモネがやられた奴ですか?」
息を絶え絶えにして首を縦に振るクジュラさんへ、私は微力ながら回復術を掛ける。カスミの気功術程の効果は無いが、血は止まったみたいだ。ハンカチでそっと、着いていた血と汗と海水?を拭う。アンドリューを回復し終えたカスミが、こちらへ来た。彼女はクジュラさんを回復しながら言う。
「次、誰かが落ちたら全員で行かなきゃだね」
「あの落とし穴なぁ。結構高かったぜ、ありゃ。俺らは身軽だから無事だったけど、希羽は自重が結構やばいかも」
「どうせ私は重いですよ」
「いや、あの、鎧がね、鉄だからね…」
アンドリューの軽口と苦しい言い訳にむっとしていると、クジュラさんが言った。
「落ちる時、水で勢いが殺されたから大丈夫だろう」
「水も落ちてたんですか?穴へは水が流れて無い様に見えましたけど?」
「ああ。俺たちが落ちる時だけ一緒に水が流れ落ちて、その後は天井に留まっていた。仕組みはわからないが…というかなぜ知っている?」
「希羽、2人が心配で、首突っ込んで穴を見てたんだよ。馬鹿でしょ」
「また軽率な真似を。危険な仕掛けだったらどうするんだ」
クジュラさんが苦笑いを浮かべながら頭を撫でてくれた。その言葉で、改めてあの時の自分の行動がやばかった事を認識する。もしかしたら毒水かも知れないし、下にモンスターが待ち構えていたかも知れないし。
「けど、その、咄嗟だったので…」
「ああ、そうだろうな。希羽は考え無しに行動するから、俺が守らなければならないのにな」
「ぅう…」
私たちの様子を見てカスミが「この人たちまーたイチャイチャしてる!」と憤慨していたが、クジュラさんは無視して立ち上がった。
「さて、これからどうするんだ?」
「みんな、進んでも平気?」
全員を見回すと、特に体の変調も異論も無さそうなので進む事にした。
「…この先、絶対また落とし穴ありますよね?」
「そうだろうな。下階はやけに広かったから、落とし穴とモンスターハウスが連動しているんだろう」
「うわ~ダル~」
カスミが口を尖らせた。
何回か分岐を進むうち、とうとうアンドリューが落とし穴に落ちた。全員で続くと、確かに落下の時だけ水が流れてて高さの割に対した怪我はしなかった。全員が落ち終えると水は天井に留まる。
「希羽、不思議がってる所悪いが」
クジュラさんが耳元で囁いたので、思わず声をあげそうになって口元を押さえる。…ドキドキしながら目線で続きを促す。
「見ろ」
彼の指の先を追うと、羊の様なモンスターがノロノロと首を動かしているのが見えた。あ、宝箱もある。何が入っているんだろう…。
私の視線が宝箱に固定されているのを見て、クジュラさんはため息をついた。
「……言っとくが、あの羊は強敵だぞ?」
「戦わなくてもうまいこと避けて、宝箱だけ開けて、糸で帰ったら良くないですか?そろそろ夜ですし」
「賛成」
アネモネが言う。カスミもかばんからアリアドネの糸を取り出した。
「…じゃあ決定という事で」
「……あれと視線は合わせるなよ」
のそのそ近づいて来る羊を全速力で走って回避し、宝箱へたどり着いた。中身は短剣で、それを大事に抱える。
「みんな、私の周りに!」
カスミがアリアドネの糸を両手で引きちぎる。ぷつんと切れた糸から発せられる光が眩しいなと感じる間に、もう見覚えのある街の中へワープしていた。