07.迷宮最強王者決定戦
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「おかしいだろ」
「いや〜自分でもびっくりしたよ」
例の如く、私の部屋へ人で集まって結果報告会をする。テーブルには奥側にクジュラさんと私、ドア側にレナーテ、私と向き合ってカスミ、そしてベッドの上でアンドリューが座っていた。
「まさか希羽がここまで強いとはな」
「そんな、私は雑魚ばっか狩ってただけですから」
狩猟大会の結果だが、なんと私が1位になってしまった。クジュラさんとアンドリューはぴったり同数。言った通り、雑魚を狩りまくってたのが功を奏したらしい。
「そもそも希羽は参加してないだろ!」
「初めに参加するって言ってた」
「狩った数だって自己申告じゃねぇか」
「あの後アタシとカスミで、死骸を数えたから間違いないわよ」
カスミとレナーテが証言してくれる。アンドリューは頭を抱えて唸り出した。
「雑魚を狩りまくってたといっても、最後の銀狐は全員一頭ずつ倒しているわけだしな」
クジュラさんが遠い目をして言う。
「確かに、アレを倒したんなら文句はねぇ、けど」
「じゃぁ!私が1位だよね?私が最強ってことだよね?アンドリュー、辞めないよね!?」
「う、ぅぐ…ま、参りました」
「やった!」
拳を握って喜んでいるとレナーテがアンドリューに疑問をぶつけた。
「でも、何でそんなにギルドを抜けたかったの?」
確かに。ヒモになりたいだけとかならあんな勝負乗らないで籍だけ置いて今までみたいにフラフラしてればいいのに。
「…別に、ただ、不安だったんだよ」
「不安?」
「海市蜃楼が迷宮を踏破したとして、海市蜃楼の名前は海都中に轟くだろ?そうなったら、俺は…俺じゃなくなりそうで」
「アンドリューじゃなくなる?どうして?」
アンドリューは少し考える素振りを見せ、一拍置いてから言葉を続けた。
「希羽も昨日、ワンピースを着て歩いてる時は海市蜃楼のリーダーとしてじゃなくてひとりの女性として周りから見られただろ。自分の肩書きなんて関係なく、ひとりの人間としてさ」
ああ、ほとんどの人が一瞬見たくらいじゃ私と気付いてなかったみたいだけど。
「元々はお姫様として、今では海市蜃楼のリーダーとしてしか見られないだろ?俺もそうさ。元々はお貴族様で、それが耐えられないから家出したのに、ここでも海市蜃楼のウォリアーとか言われるのが嫌なんだよ」
「確かに?でも、それって見る人はそう見るし、見ない人はそう見ないってだけじゃない?」
なんと言っていいのかわからないまま言葉を紡ぐ。うーんと唸っているとクジュラさんがそれに続けてくれた。
「アンドリューにとっての希羽は元婚約者で、幼馴染で、従兄弟で、ギルドのリーダーだ。…しかし、お前は希羽の事を妹みたいだと言っていたな。誰だって、他人の事は肩書きで推し量るが、身近な人間なら肩書きは関係なくひとりの人間として見る」
「そうですそれです。このままギルドを辞めて誰かの恋人のアンドリューになったとしても、迷宮を踏破して海市蜃楼のウォリアーとして名を轟かせたとしても、私にとってアンドリューは一生自分のお兄ちゃんなわけだから、アンドリューじゃなくなるなんて有り得ないよ」
「…俺にとっての希羽が、妹みたいなお姫様でギルドリーダーで、目の前に居る希羽でしかないように、か?」
頷いて、アンドリューを見つめ返す。
「ともかく、アンドリューが何者だろうと、死ぬのは私の目の前でにしてよ」
「迷宮で死ねってか?」
「迷宮踏破しても、変な所で死なないでって言ってんの」
「お姫様の為に一生無償労働だね」
ガックリと肩を落としてますます落ち込んで見えるアンドリューにカスミが茶々を入れる。
「…はぁ。なんか女の子に持て囃されて存在証明してたのが馬鹿みたいだな」
「馬鹿みたいってか、まさしく馬鹿じゃない?」
「カスミにとっての俺は馬鹿、か…」
カスミは、というかギルドメンバーみんなが、アンドリューの事は肩書き抜きで見てると思うんだよね。居場所が無いって言うならずっとここにいれば、居られれば良いのに。
「そういえば海市蜃楼は、迷宮を踏破した後どうするのだ?」
クジュラさんの言葉にドキリ、と心臓が跳ねた。……それは、考えないようにしていた事だったからだ。もし私たちが迷宮を踏破したとして、深王との約束を果たしたとして。私たちは海都の敵であるから、海都には居られないだろう。
ずっと、ここには居られない。…だからまた、旅に出る。きっと、全員が同じ答えなのだろう。全員が押し黙って私とクジュラさんを交互に見た。
漠然とした考えが、今固まってしまった。
「迷宮を踏破したら、アーモロードから去ります」
クジュラさんの顔を見れない。彼はいつもの調子で続けた。
「そうか。なら余計に、ここで作った肩書きに意味なんて無くなるな」
「……クジュラさんはどうするんだよ」
「俺は希羽に一生着いて行く」
「んえっ」
「一生側で守る。前にも言ったが、変えるつもりは無い」
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってください」
驚いて変な声が出た。確かに言ってたけども。嬉しくて赤面しつつも、クジュラさんの立場とか色々鑑みるにそれで平気なのかと改めて問うてみる。
「でもその、クジュラさんのお家は、結構有名なところなのでは」
「家督なら、養子を迎えてそいつに継がせればいい。希羽と違ってうちの血筋に特殊な力がある訳でもあるまいし、俺でなくても良いだろう。それに、海都にはうちだけでなく他にも将軍を輩出しているようなお家が掃いて捨てるほどあるから、今更うちが取り潰されても問題ない」
問題ないか?それ。めちゃくちゃな騒動になりそうだけど。カスミは「つよ」と言って笑っている。
「クジュラさんは肩書きを捨てるのか?」
「アンドリューだって捨ててきたのだろう?」
あっけらかんと言ってのけるクジュラさんに、アンドリューも笑い出した。
「そうだったな。とっくに何者でも無かったんだった」
アンドリューの顔には、もう迷いは無さそうだ。そして何かを思い出した様で、ニヤつきながら私を見た。
「……まあその、元婚約者がこんなん言うのもアレだが。希羽、結婚おめでとう」
「結婚?」
「そうだよ、さっきのってプロポーズだよね」
「プロっ」
「やだ!希羽がアタシ以外の奴と結婚するのを祝いたくない!」
レナーテは頭を振って嘆いていた。確かに一緒にいたいって、そうとも取れる?そういう意味なの?
クジュラさんはどんな顔でいるのかと見ると、彼はめちゃくちゃ優しく微笑んで私を見ていたので…つい、見惚れてしまった。私が固まっている間にもアンドリューたちは話を続けている。
「そうと決まれば、迷宮探索、もうちっと頑張るかぁ」
「え、アンドリューってパーティー入るの?」
「何でだよ。入るだろこの流れで」
「じゃ、アタシ暫く抜けるわ…完全失恋のショックが大きい…次の人探してくる…」
「ええ、レナーテが抜けるの!?無理だって、アネモネは大体静観してるし、私ひとりじゃ希羽とクジュラのイチャイチャは止めらんないって」
「嘘だろ迷宮でもこの調子なのかこいつら」
何も反論せずじっと私を見つめるクジュラさんから目が離せない。
クジュラさん以外はとりあえずこの部屋から去ってくれないかなぁ、とぼんやり思ったのであった。
/END.2024.10.09