07.迷宮最強王者決定戦
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「先ほどの店主の話は本当だったのか?」
「…私目線だと、事実です。元々、彼は私の婚約者として旅に同行していましたから」
旅の始まりは、祖国で起きたクーデターに起因する。
私の父母、当時の国王陛下と王妃陛下が反王政派に暗殺された事で国勢が揺らぎ、王太子である私は処刑される寸前だった。しかし王妹殿下であり、反王政派の筆頭である伯爵家夫人が異議を唱えたのである。
いわく、王の声を絶やす事はあってはならない、と。王の声には不思議な力が備わっており、彼の者が勝鬨を上げるだけで民衆の士気は上がり、身体能力は増強するのだった。その声を絶えさせまいと、伯爵家は跡取り息子に王太子をあてがう事で亡き王の血を濃く後世に残す事を提案したのだ。
その息子というのが、アンドリュー。
しかし彼は相当な放蕩息子で国のお飾りにされるのはごめんだからと、事もあろうに私に一緒に亡命する事を提案してきたのだった。提案……いや、あれは脅しと言うのか。もうひとりの幼馴染であるアネモネとその祖母であるプリムラを人質に、私に逃げる事を強要したのだ。私としては適当に従う振りをし、数年ほど市井を視察した後にさっさと帰るつもりではあったのだけれど。
そして亡命した先で世界樹の迷宮の噂を聞き、もともと稼ぎのあてもなかった我々にとっては好機かと思い、挑戦したのだった。しかしまあ、アンドリューはそもそも働く気など無く、女の子の元をフラフラ泊まり歩いていたのだが。私がクジュラさんを好きだと知った瞬間「希羽の元婚約者として相手は見極めなくては」とか言って私への情というか執着心みたいなのを発揮して、クジュラさんを目の敵にしていたのであった。
「結局、祖国は反王政派と王党派の内紛につけ込んだ隣国によって攻め滅ばされて、私たちは自由の身になった…と言うわけですね」
私たちを滅ぼしたと言う隣国もさっさと滅んでしまったそうだ。祖国の領土や貴族は周辺国に吸収され、民草は平穏に暮らしているとか。周辺国は祖国よりも遥かに大きく、豊かな国ばかりだったからね。
「無責任でしょ?幻滅しました?」
「いや、そもそも冒険者としての希羽しか知らないから幻滅も何も無いが。元老院での立場上でも、今のところは興味が無い」
「それは安心しました」
話し終えたあたりで、ちょうど目的の建物へ到着した。アンドリューがよく入り浸っているらしいバーだ。
ケバケバしいネオンに縁取られたドアを押し開けると、中は大音量のダンスミュージックで満たされていた。あれ、蓄音機かな?珍しいのとうるさいので呆然と立ち尽くしていると従業員の…やたら露出度の高い制服を着たスタイルの良いお姉さん方が私たちを笑顔で迎える。ちょっとクジュラさんには見て欲しくない光景だな…と引き攣りつつも店内を見回してアンドリューを探して、席案内に来てくれたお姉さんに質問をする。
「アンドリューって居ます?」
「アンドリュー??あなた、アンドリューの何?」
「ただのギルドの仲間です」
お姉さんは不躾な目線で私を見て、次にクジュラさんを見た瞬間、目をハートにしながら彼の腕に手を絡ませた。
「ちょっと!こちらのお兄さん素敵じゃないの!アンドリューならアッチだから、あなたは適当にどうぞ。お兄さんはコッチでアタシと遊びましょ」
「断る」
クジュラさんは無表情で手を振り払って、アンドリューの方へ向かっていった。わかる、こちらのお兄さんは本当に素敵ですよね、あなた良い目をお持ちです、と言う念を込めてお姉さんにお礼を言ってるとクジュラさんに手を引っ張られた。
「行くぞ」
「あ、はい」
果たしてアンドリューは、奥の方のボックス席で従業員の女の子に加えいつもの取り巻きらしき女の子に囲まれて酒浸りになっていたのだった。派手に遊んでるなぁ、と思いつつどう声を掛けようか考えていると、クジュラさんに気付いた女の子たちが色めきたった。遅れてアンドリューが私に気づく。
「げ。何しに来たんだよ、…デートか?こんなとこ来てねぇでもっと洒落たレストランとか行けよ」
「だれ?」「えー!お兄さんもここ座って」「デート?爽やかなカップルね」「あれ、希羽じゃん」「今日は可愛い格好してるのね」「うそ、クジュラさんじゃないこの人」
女の子たちは私たちを散々持て囃したが、クジュラさんの全てを射殺しそうな目を見て気まずそうに何処かへ行ってしまった。
「あの、殺意を抑えてください」
一応私も褒めてくれたので彼女たちにはちょっと同情しつつ、クジュラさんを宥めて席に着く。