01.騎士と姫
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「いつも希羽だけで依頼を請けに行くのか?」
隣を歩くクジュラさんが、私に聞いてきた。2人で冒険者酒場まで依頼を見繕いに行く最中なのだが、歩くスピードを私に合わせてくれている様で、そういうところになんだか紳士らしさを感じる。
「いいえ。いつもは他に数人連れて行きますよ。冒険者酒場には荒くれ者も多いので、私1人じゃ舐められちゃいますから…」
「なら早速俺がお前を護る役割を賜ったと言うわけか」
「う、そうなんですけど…面と向かって言われると色々と恥ずかしいです」
さっきの挨拶もそうだけど、意外にさらっと恥ずかしいことを言うのねこの人。ていうかさっきの惚れたって発言掘り下げたい。けど恥ずかしい。
2人で歩いているとやはり目立つのか、めちゃくちゃヒソヒソ言われてるので、それもやっぱり恥ずかしい。そりゃあ、迷宮踏破ギルドのリーダーと、あのクジュラさんだもんな…何があったかは知られてない筈だけど、勘繰られてる気はする。
目当ての酒場に着くと、私たちの姿を見たママさんが開口一番に、
「おーアナタ方ー!とうとう付き合ったのか!?」
などと言うもんだから私はもう顔を上げられなくなった。
他の冒険者やお客さんもクジュラさんさえもみんなこっちを見ている気配がする。
「ソウカソウカ、よかったナ!希羽はクジュラのモーレツなファンだったもんな~?」
「そ、それは今言わないで」
「ダッテ毎回立ち寄る度にアタシや他のボウケンシャーに、クジュラの情報をネチネチと聴き回って」
「本当に言わないでください!!めちゃくちゃストーカーじゃないですか!」
事実とはいえ引かれる!!とチラッと横目でクジュラさんを見上げる。やっぱりめちゃくちゃこっち見てる気がするー!!
「す、すみません、ほんと…キモくて」
「?別に気持ち悪くはないが?」
「むしろ嬉しいよナ?」
「まあ…悪い気はしないが」
悪い気はしない!?なんで!?
「というか、あの、付き合ってませんから」
「そうだな。まだ付き合ってはいない。ギルドに入れてもらったんだ」
まだ!?まだってなに?!!
いやいや、これはきっと思わせぶりな発言で私を虜にさせて、懐柔した上でギルドを崩壊させるつもりなんだ!彼はギルドクラッシャーなんだ!
…いや、彼の私たちに対する恨みを考えれば本当にそうなんだろうけど。さすがに。
「じゃ腕試しというワケですねー!?ふんふん、丁度いい依頼、あるよ!ナンデモここ最近、一階層に深部のモンスターが出る様になって、新人サンが困ってイルから片付けて欲しいソウナ…まあお前たちとクジュラならヨユーですな!やってくれるナ?」
「はい!わかりました。請け負います」
他の依頼も物色して、他にも数件、採取のクエストを引き受けた。
請負書類にサインをしているとクジュラさんとマスターが少し声をひそめて話し出した。
「元老院の婆さんは見つかったか?」
「うーん、マダ何の情報もナイヨ…心配ですネ…」
「そうか……」
元老院の彼女はあの日の戦いの最中で姿を消したきりだった。
噂によると白亜ノ森の奥にも迷宮は続いてて実はそこへ逃げ込んだだの、昔の恋人だった深都の王と駆け落ちしただの…。ちょっと真実な分、絶対無いとは言えないよね。
もちろん私たちも散々探し回ったが、ついぞ見つけることはできなかった。クジュラさんも、静養中に色々とツテを頼ったりして探してはいたらしいけど…。
「書けた様だな?行くか」
「はい」
「アッ、お二人さん、待った待った!」
提出した契約書類とは別の紙をヒラヒラさせながらマスターがニヤニヤ笑いを浮かべている。
何か書き漏らしかとよく見ると、それには「婚姻届」の文字が。
「忘れ物ですゾ~」
「だから違います!!付き合ってないし、だとしても気が早い!!何でそんなの持ってるんですか!?」
「もう、ごめんなさい」
過去の自分をしっかりめに諌めたい。あんたのミーハーな行動で今めちゃくちゃ困ってるよと。
「いや…それで、どうするんだ?」
「え!?」
一瞬結婚のことかと思ったけど、そんなわけあるわけない。
今から依頼をこなすのか、一旦帰って準備するのかと言う事かな。
「まずは、パーティーを組み直して、アイテムを買いに商会へ寄ってから、で、行きます」
「そっちじゃなくて、付き合うかどうかだが」
「ぶぇっ!?」
「ふふ、冗談だ」
「じょうだ…ちょっと、言っていい冗談じゃないですよ!?」
「すまない、ついな」
などと言って少し微笑んで私の肩を叩き、…冗談言うとか意外すぎるんだが!?
まずい、私今真っ赤だと思う。なんとか隠すために頬を両手で覆っていると、クジュラさんはさらに夢かと思う様な言葉を続けた。
「俺も前に、お前たちのギルドの事を散々街の人間に聞き回ったからな。お前が聞き回っていた件と、おあいこだ。…希羽が俺を好いていてくれていた事も、実は随分前から知っていた」
「なん、なん…本当にごめんなさい!!」
「謝らなくていい。…さあ、行くぞ」
私たちのギルドへクジュラさんを迎え入れる為に、冒険者ギルドへ登録へ来た。ギルド長は私を見るとニッと歯を見せ、声を掛けてくれる。
「おう、お前か。探索パーティーの変更か?」
「はい。それと登録も」
「じゃあこっちの書類に、…お?クジュラじゃねぇか。また情報収集か?」
「いや。ギルドのメンバー登録に来た」
「は???」
ギルド長が私とクジュラさんを交互に見て、吹き出した。
「希羽!とうとう念願叶ってクジュラと付き「付き合ってませんからね!!」
「なんだよ。そんな目くじら立てるなよ」
ギルド長は渾身のギャグを潰された様な顔で用紙とペンを渡してくる。
この街のだいたいの人が、私がずっと片思いをしていることを知っている。そりゃ本人の耳に届くわけだ。
嬉しいけど、事実とは異なるので否定しなきゃならないのが切ない。
「書けた様だな。どういう経緯であんたがこのギルドに入るかは知らないが…俺はこいつらを買っている。変な真似はしてくれるなよ。わかってるな?」
「肝に銘じておく」
「ふん。おい。せいぜい浮かれてヘマしない様に気をつけろよ。迷宮はデートスポットじゃねぇんだからな。お前に言ってんだぞ、希羽」
「は、はい。気をつけます!」
「さて、登録は終えましたし……後はお買い物なんですけど…ちょっと気が重いなぁ…」
「何故だ?」
「クジュラさん、商会の店主さんはご存知ですよね?」
「ああ。よくアイテムを買いに行くからな。ああ、揶揄われるのが嫌か?」
「嫌…ではないですけど、恥ずかしいです…」
「なら俺がひとりで行こう。何が必要なんだ?」
「いえそんな!私が行きます!あの、店の前で待っていて下さりますか?」
「重いものも買うだろう」
「大丈夫です!いつも後衛のゾディアックと、ウォリアーとで一緒に迷宮の荷物抱えてますから!」
「いいから。厚意は素直に受け止めろ」
結局言いくるめられて買ってきてもらうことにした。
クジュラさん優しい。ああ、好き。
しばらく待っていると荷物を抱えた彼が戻ってきた。
「ありがとうございます!私も持ちます!」
「いや、いい。それより、俺がお前に世話になっていることを店主はすでに知っていた様で、めちゃくちゃ揶揄われた」
「ええ!?」
「耳が早いな、流石に。希羽の推察通りだったよ」
「揶揄われたって…や、やっぱ恥ずかしい系でした?」
「お前が聴いたら真っ赤になっていたかもしれんな」
「……クジュラさんは恥ずかしかったりしました?」
「まあ人並みに」
「基準がわからないんですけど」
「真っ赤にはならなかったな」
「案外意地悪ですね…?」