01.騎士と姫
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先日の手紙が功を奏した。深都から返信された手紙を抱えて、クジュラさんのいる部屋へ入る。
彼は相変わらず無表情だったが、私の計画を話すと僅かに目をみはった。
「義手?」
「はい。深都の技術で、本物の人体みたいに扱える義手が造れるんですって。あなたにどうかと打診がありました」
「深都の技術、か。……忌々しい」
「技術に罪はありません」
「それはそうだが」
「それに、これは私たちギルドのあなたに対する償いのひとつです。どうか、考えるだけでもお願いします」
「……わかった」
「じゃあ!お決まりになりましたら教えてくださいね!」
しまった、レストランみたいなノリで言ってしまった。まあいいか。出来るだけ深刻にならないように努めてるんだけど、どうも根が軽いので、もしかしたらむしろ不快にさせてるかもしれない…気をつけよう。
手が使えないのは色々困るし、深都の技術力はかの機械人を見れば明らかだという事で、クジュラさんはわりとあっさり義手を着けることに承諾した。
明日にも技術者がやってきて採寸やら希望の聞き出しやらしてくれるらしい。新しく作るのには2~3週間ほど掛かるとの事で、その間は日常生活くらいはなんとか送れる程度の汎用的な義手も取り着けてくれるそうだ。
いやあ…本当に良かった。だって、今まで私がその、いろんな介助をしていたわけで。
特にお風呂なんかは、傷も癒えていないので、体を清める程度しか出来ない。だから私がその、彼の素肌へお湯を含ませたタオルを……思い出しても恥ずかしい!多分彼も恥ずかしいだろうけど!
しかし、安心はしたけど名残惜しくもあるのは…私がアレなんだろうか。
彼が義手の操作にも慣れて、1人で外に出られる様になってきた頃。さすがに私と続き部屋でいるのは困るという事で、新しく部屋を借りて、そちらに移ってもらうことになった。
海都の城にある彼の部屋に戻ると言っていたけど、しばらくは戻らなくてもいいらしいし、戻りたくも無いらしい。それは、そうだよね。思い出すことも多いだろう。
新しい部屋は私たちギルドが貸し切り状態にしている階と、同じ階だった。私の部屋からは少し奥にある。
「あれから1ヶ月ほどになるか。お前たちには本当に感謝している。ありがとう」
「感謝なんていらないですよ」
「そうだな、お前たちはこれから復讐される訳だからな」
そう言うと彼はニッ笑って、私を引き寄せて、…抱きしめた。
刺されるのかと思って身体がこわばったが、その気配はないので戸惑う。ただ優しく抱きしめられるだけ。
「あ、あの?」
「希羽は、お前たちギルドのリーダーだったな」
「はい、そうですけど…?」
「初めて会った時にはこんな普通そうな、そもそも冒険者にすら向いてなさそうな者があまつさえリーダーなんてと驚いたものだが」
「え…そんな風に思ってらしたんです?」
「ああ。他のメンバーがよほど持ち上げているのだと思っていた。戦闘でも補助ばかりで特に目立った動きもしていない様に見えていたしな。
だが極短い期間だったが一緒に過ごして分かった。お前は、器が広い。自分の敵も、古の人類も、人類の敵も、なんでも受け入れる」
「そんな。そんな事は…」
「現に敵だった俺を看護してくれたじゃないか」
「だってそれは、クジュラさんの事が、好きだからです」
「あんなに敵対していたのに、それでも個人としては俺を好いていてくれたのは、寛容だと思うが?」
「私は敵対していたつもりはありませんし。少し、色ボケてたのは、その、認めますけど。変なこといっぱい口走っちゃったし…」
なんだかだんだん恥ずかしくなってきた。
戸惑っていたから気づかなかったけど、クジュラさんの声が、息遣いが耳元で聴こえるし、体温は感じるし、香りもっ!
なんなんだこの状態は。いつまで抱きしめられるの?!抱きしめ返していいのかな、それとも私から離れた方がいいのかな!?
ああ、心臓が持たない!この後どうする気なんだろう。精神的に盛り上げて、この後落とす気か!?こんな復讐はやめて欲しい!
「さて、復讐についてなんだが」
「なっ、なんですか?」
「俺をお前たちのギルドに入れてくれないか」
「え!?」
「色々考えていた。俺の大切な人の命を奪った海市蜃楼と、俺を生かした希羽にどう復讐しようかと。
復讐なら同じ目に合わせればいいだろう」
「そうですね…スタンダードですよね」
「なら、海市蜃楼からはリーダーの希羽という大切なものを奪い、且つ生かせば、俺の復讐は完遂できる事になる」
「うちに加入する事と関係あるんですか?」
「…わからないか?」
わからないと答えると、クジュラさんの私を抱きしめる力が少し強まった気がする。ひええ…心臓が口から飛び出そう…!すみませんこの状況の方がよっぽどわかりません。
「お前の側に常に俺がいる事が、お前たちのギルドメンバーには復讐になるはずだ」
「じゃあ、奪って生かすって、人質ってことですか…?」
「さてな。そうかもな」
クジュラさんは曖昧に答えると、私を解放した。そして私の瞳をのぞき込む。ドキドキしながら見つめ返した彼の瞳の奥に、熱い光が見えた気がした。
仲間たちに相談をすると皆は口々に「騙されている」と言った。
そりゃあ怪しいと誰もが思うだろう。何せあの若さで元老院の右腕とまで言われた彼だ。ただ腕が立つというだけでその地位に登り詰めたとは考えられまい。
彼の狡猾さはすでに、幾度となく、身をもって味わっている。100パーセント胡散臭い。私の恋心につけ入ろうとしているのではないか…というのが、皆の意見だった。
正直私もそう思う。けど、そうは思いたくないのが恋心。
それに全員が彼に対して負い目もある。騙されても文句は無い、と言うことで満場一致で加入の申し出を受け入れることにした。
「…というわけです」
「お前たち、よくそれで迷宮を踏破できたな」
迎え入れる意向を伝えると、当のクジュラさんが苦笑した。
「俺を信じるのか?」
「あなたになら何をされようと文句は無い、と言うのがギルド全員の意向です」
「変わっているな…本当に」
「普通ですよ。それにクジュラさん、強いし…強い人大歓迎です!」
「お前らに負けたが?」
「5対1でよってたかってですよ?逆に、私と5人に増えたあなたで戦ったら、瞬殺されます!」
「ふふ。そうだな」
次の日、私の部屋へギルドメンバーを集め、軽くクジュラさんを紹介してから、彼からも挨拶をしてもらう。
「お前らを殺したい程憎く思っているのも本心だ。しかし、リーダーに惚れてしまった。彼女を側で守らせて欲しい」
「ぁえ!?あ、え?あの」
それは人柄にとか矜持にとかいうアレというか…え?恋愛的な意味じゃありませんよね?
ギルドメンバー全員が唖然としている中でクジュラさんは事もなげにというわけでよろしくとだけ続けて、黙った。
爆弾発言にもなんとか平常心を装って、これからの予定を話す。
「とっ!こほん、とにかく。今日はこれからクエストをこなそうと思ってますので、よろしくお願いします!」
第一声でめちゃくちゃ声が裏返って、みんな…クジュラさんにも笑われた。あ、やっぱこれが復讐ですか?