01.騎士と姫
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「クジュラさん、お食事です…」
ノックをして、返事はなかったが様子を窺いに静かに部屋に入る。
今回の食事、時間的には晩御飯なのだが、これは普通に宿屋の提供メニューだ。
灯りも消えているし、眠ってらっしゃるのかな…?
ベッドのサイドテーブルへ、お盆を乗せる。
一緒に持ってきたカンテラをベッドへ近づけると、彼は目を瞑って苦しそうに息をしていた。
傷が痛むのか、悪夢を見ていらっしゃるのか…。起こすかどうか迷ったけど、回復術だけ掛けてから、その場を後にしようとした。
「待て…」
「…ごめんなさい。起こしちゃいましたね」
「いや…」
汗びっしょりのままで上半身を起こそうとしている。
…バランスが上手く取れない様で、それだけの動きがとてもぎこちなかった。
「すまない、引き止めて。ただ、…少し、話し相手になってくれないか」
「え?私ですか?」
「他に誰がいるんだ、お前に…希羽に言っている」
「ふふ。はい、もちろん構いませんよ。あ、お食事も持ってきたんです。今、召し上がられますか?」
「ああ」
食事の前に、まずは彼の汗をハンカチで拭ってあげた。
「すまない」
「傷、痛みます…よね」
今夜のメニューは、クリームシチューと、ベーコンとレタスのサンドイッチだった。
サンドイッチを彼の口元に差し出しながら、包帯を巻かれた腕に目をやる。
「いや、さっきまでは酷く痛んだが、お前が術を掛けてくれたおかげで随分楽になった」
「本当ですか!?良かった…。本当は入院させてあげたいんですけど、今ちょっと治療院の方が立て込んでるそうで、高位回復術者が居るギルドはお断りされてるんです…。
朝晩はうちのモンクが術を掛ける予定なので、食べ終わったら呼んできますね」
「そうなのか?何かあったのだろうか」
「うーん。噂によると、ごく浅い層に強めのモンスターが出現し始めて、初心者パーティーが軒並みやられてるとかなんとか。それで対応に追われているそうです」
「なら、そろそろミッションが発令されそうだな」
「…それなんですけど、元老院の方が今は機能停止してるんです」
「停止??何故だ?」
「…フローディア様が行方不明になってしまって…」
「婆さんが?…馬鹿な、あの時確かに生きてあの場で伏していたと記憶しているが」
「そう、でも私たちがあなたの治癒を終わらせた時には、もうどこにも居なくて、それきり…」
「そうだったのか…なるほどな。だったら明日にでも元老院へ戻ることにする」
「え!!」
「あそこには他にまともな奴がいないから、俺が指揮をせねば。その後は、…そのまま戻ろう。あまり気は進まないが…」
「…あの、クジュラさんが良ければ、ここにずっと居てくださっても」
「……それは出来かねる」
「そ、そうですよね…」
ちなみに私は、クジュラさんがサンドイッチを食べる姿がハムスターみたいで可愛いなって思いながら話している。
お行儀よく小さな口でもぐもぐしてるんだ。あのクジュラさんが。可愛いに決まってる。
「お前は、どうしてそこまで俺にこだわるんだ?」
「え?こだわってる様に見えますか?」
「…あの時お前が血相を変えて俺に近寄って来たところまでは記憶が鮮明にある。俺を治療しようと言い出したのはお前だろう」
「う…」
あー、やばい、めちゃくちゃまずい。この流れだと言わなきゃおかしいかな。言っちゃうか?言って良いのかな、こんなに辛そうな人に、でも言わないのも不審かな。顔が熱くなってきたのを手で覆って隠す。
「…こだわってる理由ですか。あの、私、私今から、変なこと言います」
「?ああ…?」
「私、あなたを、…クジュラさんのこと、好き…なんですっ」
「……は?」
「ああ~やっぱり忘れてください!今言うことじゃないです!」
クジュラさん、めちゃくちゃ困惑してらっしゃる!
そりゃそうだよ!辛いのにこんなん言われても重いし何も考えて無いって思われるよ…うわぁ…最低だ…。
「忘れてください…すみません本当…最低すぎます私」
「いや…別に、泣かなくてもいいが…?」
あ、声がなんだか優しい。そう、意外と優しいところとか、面倒見がいいところとか、好きなんだ…ってそう言うこと考えてる場合でもない!!
「あの~、そうだ!この間海に出た時に、バカラオはガルムを付けると美味しいって言われて、実際食べたらめちゃくちゃ美味しくて…」
無理に話題を変えて、なんとか乗り切った。
クジュラさんはずっと微妙な顔をしていたけど、食事は完食なさったし、多分、少しは気分転換に付き合えたかなと思うので良しとしよう!
「では、うちのモンクを連れて来ますので、少しの間、失礼します!」
「あ、ああ。ありがとう。助かる」
こうして逃げる様に部屋を出てから、今の無様な告白が一生フラッシュバックする予感に頭を抱えたのであった。