05.迂闊
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
宿屋の食堂へ行くと、中途半端な時間帯だから、まだまだ仕込み中だと言う。でも海市蜃楼のためだからと宿屋の息子さんが特別に用意してくれたのを、ありがたく2人で食べる。
「ねえねえ、クジュラさんと何か話した?どんな話したの?」
「ほぼアンタの話だわ」
「聞きたい!聞きたすぎる!」
「ふふ。彼がアンタのどこが好きかとか可愛いと思った所とか聞いたわよ」
「…、やっぱ恥ずかしい、聞きたくないかも」
「聞きなさい!まずアンタのどこに惚れたかだけどぉ!」
「声大きいって!」
「…ふん、まあ本人から聞きなさい」
「ええ…」
2人で他愛もない話をしながら食事を済ませてカスミの元へ戻ると、彼女は目を覚ましていた。
傍らではスミレがりんごをうさぎの形に剥いている。…なにあれ、可愛い。
どうやるのか聞きたいのをぐっとこらえ、カスミの体調を窺う。
「どこか痛む所はある?」
顔色は良いとはいえないけど、悪すぎることもない。
スミレに無理やりりんごを口に突っ込まれてモゴモゴしていたが、飲み込んでから力無く笑った。
「ううん。ありがとう希羽、レナーテ。すっかり全快、とまでは行ってないけどもう動けそうだよ」
「よかった…」
全員でホッと息を吐く。カスミは言葉を続けた。
「だから、自分の部屋で休むね」
「あら、良いのよ。どうせこの子、クジュラさんの部屋で一緒に寝るんだから」
レナーテが私の肩に腕を回して言った。
いやいや、そんな本人の了承を得ずに勝手に決めて。…恋人だしいいのか?
唸っているとスミレが夢見がちな顔をして笑った。
「ラブラブだね~」
「え、えへへ~」
「なに喜んでるのよ」
「ちょっ、レナーテ!押さないでよ!」
突き飛ばされて、ふらつく。口をとんがらせて彼女を見ると、つい、と舌を出してきた。解せぬ。
クスクスと笑っていたカスミが、何かを思い出したように小さく声を上げた。
「…クジュラも、私のこと看ててくれたんだよね?後で直接言うけど、希羽からもお礼言っておいてくれるかなぁ」
「うん、もちろん!」
「じゃあ尚更行きなさいよ」
「う、うん…いいのかな?」
「可愛い恋人の『一緒に寝たい♥』っておねだりを断るような人間はゴミカスよ」
そこまで言う?
結局解散してみんなが各部屋に戻るのを見送ってから、私はクジュラさんの部屋のドアをノックした。
少しして、眠そうな顔のクジュラさんが出てきて、一瞬ドキッとした。
だるそうでなんだか色気が溢れてる…って、違う違う、そっか、そりゃ寝てたよね。浮かれて考えなしに来てしまって申し訳なくなる。
「ごめんなさい、起こしちゃって」
「いや…交代か?」
「あ、いえ。カスミの目が覚めて、もう大丈夫だからって自分の部屋に戻ったんです」
「そうか、それは良かった」
クジュラさんは優しげに目を細めて私を抱きしめた。少しだけ体温が高い気がする。
やっぱり寝てたんだな。私も部屋に戻った方がいいかな、戻ることにしようかな。
「あの、報告だけしておこうかと、思いまして。それだけですので…」
「ん、承知した…なら、もう、…希羽を独り占めにしても良いのか?」
「え…?えっと」
独り占め!?そんな子供みたいなことをクジュラさんが言うなんて可愛すぎると戸惑っていると、念押しされた。
「一緒に寝るよな?」
「は、はいぃ…」
これが可愛い恋人のおねだり!破壊力すご。そりゃ断れない!断れる奴は人間じゃない!などと考えていると、
「…お前たちもゆっくり休めよ」
クジュラさんが大きくは無いけれど不思議とよく通る声で誰かに投げかけた。途端に方々から慌てたような返事が聞こえる。
「やばっ」
「すみませんおやすみなさい!」
「おねだりしなさいよ馬鹿希羽!」
そしてバタンバタンとドアが閉まる音。
カスミとスミレとレナーテが、部屋に戻ったフリしてこっそりこちらを伺ってたらしい。
「…すみませんなんか。あんな感じで」
「仲が良いな」
「う~、クジュラさんとも仲良くしたいです」
見られた事に赤面しながらクジュラさんの胸元に頬を擦り寄せる。
抱きしめられる腕が強まって、そのまま部屋の中に引き入れられた。
「わっ、あの」
「可愛すぎないか?」
「え、な、なにがですか…?う、嬉しいです、けどっ?」
抱きしめたままで首筋に唇を落とされる。
「クジュラさん、っ…寝るんじゃなかったんですか?」
「むしろ眠れるのか?」
「む、むり…です」
「ふふ、だな」
そのまま首筋を上がって耳たぶをはみ、頬、唇までキスをされる。
ドキドキしながら、ふとレナーテがおねだりしろとしつこかったなと思い出す。少し唇が離れた。
「クジュラ、さん」
「なんだ」
「ん、…ベッドまで…抱っこしてください」
キスの合間に、おねだりしてみた。クジュラさんは一瞬目を見開いてキスをやめて、眉間にシワを寄せる。あ、可愛くなかったかな、と慌てて訂正しようと口を開く前に、サッとお姫様抱っこされた。
「きゃっ」
「もう知らないからな」
「え、あの」
「絶対に寝かせない」
そう言う彼の瞳はさっきまでの気だるげな熱を帯びたものではなく、いつかの兵刃を交えた時みたいに冷たく輝いていた。
END / 24.05.30