05.迂闊
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私の部屋ではカスミの看病が行われているので、クジュラさんが自分の部屋を提供してくれた。
「…おじゃましまーす…」
別に初めて入った訳ではないのだけど、落ち着かなくてキョロキョロする。相変わらず物がほぼ無くて、埃もひとつとして落ちていない。
「好きに使うと良い。どうせ間取りも設備もほぼ同じだがな」
「あの…」
「何だ?」
「いえ、…遠慮なく起こしに来て下さいね。おやすみなさい」
背伸びして軽くキスをすると、彼は目を細めておやすみと返してくれた。
さて…ベッド…使って良いんだよね…。いかにも几帳面らしく綺麗に整えられたベッドを目の端に捉える。
クジュラさんがいつも使っているベッド…直視出来ない。
いや何度かはそりゃ、使わせてもらったけど。ひとりでじっくり使うのはドキドキするじゃあありませんか!
とりあえず、シャワーで汗を流させてもらおうと、備え付きのシャワールームへ赴く。
あ、シャンプー…使わせてもらいましょう。あっ、やばい、彼の香りだ…。これは、やばいかも。ちょっと興奮しつつもなんとか頭と体を洗い終える。
ついでに、カスミの包帯を替える際に血が付いてしまった服も水で洗う。
体を拭き、服を着ようとしたところで着替えを持ってくるのを忘れた事に気付いた。さっき洗った服をチラリと見る。これに袖を通すのはな…せっかくなら服も借りちゃおうかな~…。
いや、いくら本人が好きに使えと言ってたからって、人の部屋の箪笥を物色するのは良くない。悪魔の思考に染まるところだった、危ない危ない。
結局誰にも会わないことを祈りながらタオルを体に巻き付け、洗った服を抱えて、着替えを取りに行く事にした。
自分の部屋だけど、人が使っていると入りづらいのでノックをする。
「…希羽?」
「着替え忘れちゃったんで取りにきました」
「あ、ああ。その格好は?」
「シャワー浴びて、ついでに服も洗ったんで…」
「別に俺のを着ても良かったが?」
「いえ、私は自分の中の悪魔に打ち勝ったんです」
「…は?」
新しく服を取り出して、着替えようとしたところでクジュラさんの視線に気付く。
「あの…着替えますね」
「ああ」
「え…?」
「は?」
「は、恥ずかしいんで、向こう見ててもらえますか?」
「?…今更だな?」
そりゃ朝まで裸だったけど!
「いいですから、向こうむいててください!」
「なら、カスミとレナーテの様子を見てくる」
もう、クジュラさんにも乙女心ってもんを多少は理解してほしいものだ。カスミを着替えさせる時はすぐに気付いてくれたのに!
彼が続き部屋へ入って行くのを見送って、服を着る。洗った方の服は天井付近に張ったロープへ掛けて、部屋干しをしておく。
…下着はバスタオルの下に絶対に落ちないように隠して干した。
「…何笑ってるの」
続き部屋へ入ると、レナーテがお腹を抱えてひーひー言っていた。クジュラさんが今のやり取りを話したらしく、気まずそうに私から目を逸らしている。
「いや、今更じゃない?」
「うーるーさーい。カスミが起きるでしょ」
ついでに回復術を掛けてあげて(シャワーを浴びて少し魔力が戻ったのだ)そそくさと部屋を出た。
ああ恥ずかしかった。さっさと寝てしまおう、とクジュラさんの部屋の扉に手をかけた時、
「希羽」
「わ!?」
壁ドンをされ慌てて声の方を見上げる。困った様な顔のクジュラさんが居た。
「その、すまなかったな」
「へ?何がですか?」
「先程の…怒らせてしまったことに対してだ」
「別に怒ってませんよ?というか、私こそ、ごめんなさい。言い方キツかったかもしれませんけど、恥ずかしかっただけなんです」
「恥ずかしがらせたか…別にお前の裸に慣れたとかそう言うわけではないからな」
「は、はい??」
「むしろもっと観ていたいと思ったから、ついじっと見つめてしまった。嫌がるとも思ってなかった」
「ちょ、ちょっと待って、…」
「俺も男だから、好きな女の裸を見たいと思うのは当然だしな」
「待って待って一旦中に入りましょう」
腕を引っ張って部屋の中に入って、クジュラさんを見つめる。ああ、訝しげに眉を寄せてる。可愛すぎて思い切り抱きついた。
「そんな風に言われたら、眠れなくなるじゃないですか」
「…それはこっちの台詞だ」
クジュラさんにぎゅっと抱き返される。
そのまま流れに身を任せる…というわけにはいかない。
「…でも寝ます!」
自分から行ったくせに思いっきり突っぱねると、クジュラさんは小さく息を吐いて目を細めた。
「そうだな」
「…ごめんなさい」
「いや。おやすみ」
「おやすみなさい」
今度はクジュラさんからキスをしてくれた。
胸の奥が熱い。本当に眠れる気がしない。
勢いよくクジュラさんのベッドへダイブした。フカっとした布団からクジュラさんの香りを感じて、ますます体が熱い。
腕の中の寂しさを埋める様に枕を抱きしめて丸くなる。枕からもクジュラさんの、香りが…
「希羽」
「ん、…」
「希羽、起きられるか?」
「…クジュラさん…」
目を開くと、クジュラさんが側に立っていた。
どうやら私、あれだけ眠れないとか言っててしっかり眠れてたらしい。
「交代の時間です?ありがとうございます」
「体調はどうだ?」
「特に問題ありませんよ!魔力も回復しました」
死ぬほど眠いが、あくびをかみ殺して笑顔を作ってみせる。
ベッドから降り立つと、軽く伸びをする。それから洗面台をお借りして、軽く朝の身支度(時計を見たらもう昼下がりだったけど)をした。
「…無理はするなよ?」
支度している間、クジュラさんはベッドに腰掛けていたので、ちょっとの間だけ、と隣に座る。
「クジュラさんこそ、あれから一睡もしてないじゃないですか。ゆっくりお休みください」
笑いながらクジュラさんの頬を撫でると、彼は少しそっぽを向いた。
「触れられるの嫌ですか?」
「嫌とかではなく…このシチュエーションでそう言うことをされると、抑えられなくなるからやめろ……希羽…?」
「あ、あ、ごめんなさい、可愛すぎて固まっちゃってました」
いっそ押し倒したい気持ちをぐっと堪えて、立ち上がった。
「あの、じゃあ行ってきます」
「ああ」
「おやすみなさい、ってこれ何度目かわかんないですけど」
「挨拶は何度してもいいだろう。おやすみ、また後で」
再び私の部屋へ戻ると、カスミの妹のスミレが来ていた。彼女は私を見るなり笑顔で迎えてくれたが、目の下のくまを見るに、まだまだ疲れは残っていそうだ。
「希羽!お疲れ様」
「スミレ。もう少し休んでなきゃ」
「やだ。希羽とレナーテこそもう少し休んでてよ。ご飯もろくに食べてないんでしょ?」
「まあそうだけど」
どう説得しようかとレナーテに助けを求めると、彼女は口許に手を当てて少し悩んだ後、顔を明るくして言った。
「カスミも結構顔色良くなってきたし、朝ごはんでも食べに行く?」
「そうしてきなよ。私がお姉ちゃん見てるから…」
まあ、姉妹水入らずの時間もあった方がいいかと、お言葉に甘える事にして冒頭に繋がるのだった。