05.迂闊
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さて、次の日。朝イチで迷宮へ入り、下階への階段とルート探しに文字通り奔走していた私たち。
「結構埋まってきましたね」
地図を見て、まだ行っていないフロアに当たりをつける。
「あの木の蛇は、どうにか回避出来てるし」
「見つかっても即逃げてなんとかなってるね」
「このペースだとお昼前には下の階に進めるかなー」
とか言ってる間に、下り階段とショートカットできそうな抜け穴を見つけて沸く。
なんというか、下ると消化されてしまいそうな、嫌な感じの階段をみんなで降りる。
「…また扉かぁ」
少し先まで歩くと、またもや何か生物の器官を思わせるような奇妙な扉があった。
触れるとニュ~っと滑らかにその口を開く。見えた向こう側の景色に嫌な予感を覚えてため息を吐いた。
「見てあれ」
私が指を差すと全員が扉の向こうを覗き、全員が嫌そうに顔をしかめた。
「…もしかして、白亜の森の様に地面が水浸しで反射しているのか?」
クジュラさんが言う。レナーテに様子を見てきてもらうと、苦笑いで「ビンゴ」と言いながら戻ってきた。
「駄目、クジュラさんのご推察通り全面水張りで、全く距離感が掴めない」
「わー…」
「しかも、方位磁石も使えないわ」
「えー…」
「希羽。どうするの?」
レナーテが私を見た。
探索を続けるのか否かを聞いているのだ。
経験上、階を跨ぐごとにモンスターも強く厄介になってくる事は知っている。ここまで辿り着くのに、アイテムも相当消費したし…。
少しだけ考えて、私は答える。
「帰りましょうか」
「随分と慎重なのだな?」
クジュラさんが言う。潜ってから時間もそこまで掛かっていないし体力も残ってはいるから慎重に思えるのは納得だ。
消費したとはいえアイテムもまだまだ潤沢にあるからね。
「まあ、まだお昼前ですけど。体力魔力はまだあっても、気力がありません。それに、あれをマッピングしてたらあっという間に夜になりそうですし」
「そういうものか?何日も潜っている冒険者も多いだろうに」
「すぐ来れるんですから深追いは厳禁ですよ。こんな場所で携帯食料かじってテントで寝たら発狂しそう」
「それはそう」
カスミが全力で頷いた。
「…それが海市蜃楼の強さの秘訣か」
「えへへ。秘訣と言われるとどうかと思いますけど、ずっと迷宮に潜ってると気が休まらないでしょう?」
「素直に、帰った方が安上がりだって言いなさいよ…」
「ぎくっ…あはは、本音ではそれが1番なんですよね」
レナーテの言葉と目線が痛い。
別に貧乏って訳ではないと思うんだけど、我がギルド・海市蜃楼こそが、海都の経済を回していると言っても過言では無いのではないか。
武具防具買い替えるだけで稼ぎなんて飛んでいくしなぁ。
アイテムを豊富に使えるギルドってなんであんなお金持ってるのかな。
「他のギルドは採集メインで探索しているからではないか?お前たちほど迷宮解明の為に動いているギルドはそう居ない筈だ」
「なるほど!それいいですね」
クジュラさんの言葉に膝を打った。
「いいとは?」
「お金が欲しいんです!」
「ド直球だな」
「また採集に行くの?」
カスミがどことなく嬉しそうに言った。
採集用パーティーには彼女の妹が加えられることが多いからだろう。
「そうだね、そうしてもらおっかな」
「希羽はお休みね」
レナーテの言葉にクジュラさんが首を傾げる。なんでいちいち可愛いんだろう。
「希羽は採集には行かないのか?」
「行きたいのはやまやまですけど、パーティーの枠が足りなくて。
足が速いレナーテとスミレ、採集メインのプリムラと、回復役のカスミと、いざという時のアネモネが採集パーティーて感じです」
「なるほどな」
「…ねえ、そろそろ帰ろうよ」
アネモネが恨めしそうに言う。確かに。拠点ですればいい話だ。
そして私たちは糸を使って海都へ戻ったのであった。
一旦休憩を挟み、その日の夜に採集パーティーが出発する事になった。
採集パーティーはいつも宵の口に出かけ、明け方頃に帰ってくる。迷宮内の採集ポイントは資源を採り尽くしても日付を跨ぐ頃にまた資源を産み出すのだ。
まるでリセットでもされているかのようだけど、6層のあの生き物然とした姿を見るに、何か循環しているのだろうか。
そう考えるとみんなが携えている装備もだいぶ不気味だなぁと思う。
…クジュラさんが元々持っていたあの妖刀だって、きっと迷宮産だろう。
ちなみに彼にはアネモネが占った『妖刀のせいで運命が捻じ曲がっていた』という話はしていない。よく当たるとはいえ占いだしね。
クジュラさんがそれを信じようが信じまいが、『自分の運命』なんて話を訊いてもいないのに聞かされるのは、嫌だろう。
それに私は、本当は運命論を信じていない。そんな物あったとしたら、私はすでに亡き祖国と一緒にその身を滅ぼしていたはずだ。
宿屋の玄関で、彼女たちを見送る。並んで立つ私とクジュラさんをニヤニヤと見ながら、レナーテが言った。
「ちょっと、アタシたちが居ないからって羽目を外すんじゃないからね」
他の面々がそれに続く。
「イチャイチャも程々にね~」
「若いわねぇ~」「若い若い」
「ねえねえ、やっぱりあの2人、迷宮でもイチャイチャしてるの?」
「もう!早く行きなよ!!」
好き勝手言うだけ言って、採集パーティーが迷宮へと向かった。茶化されるのは苦手である。いくらクジュラさんとは恋人で、その仲を、とはいえ気まずい。熱くなった頬に手を添えて、隠す。
「海市蜃楼は仲がいいな?」
クジュラさんが少し微笑みながら言ってくるので、恥ずかしいのを誤魔化すためにタックルするように抱きつく。
「クジュラさんは恥ずかしくないんですか?」
「別に…俺は恥ずかしくは無い、が。恥ずかしがってる希羽は愛おしいと思う」
「またそういう事を!!」
いつもよりクジュラさんの言葉の糖度が高い気がする。この後の2人の予定を妄想して、ひとりで身悶えたのだった。