05.迂闊
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「う、気持ち悪い」
樹海磁軸から6層に足を踏み入れた途端、今までとは違った禍々しい森が広がる。澱んだ磯臭い空気、地面は5層と同じく水浸しで、何よりも不気味なのが…あちこちからタコの様な触手が伸びているところ。
アネモネは6層の空気が苦手らしく、うずくまって吐き気を堪えている。
「だらしないわねぇ」
レナーテがアネモネへ水筒を渡すと、辺りを見回して言った。
「で、今日はどうすんの」
「うーん、南はあらかた探索しきったし、北行ってみようか」
6層の厭なところと言えば、地図が複雑すぎるところだろう。
何度も同じ道を通って大回りをしてようやく新しい所に辿り着ける。
そして地面に油が滲んでいる通路なんかは、滑るように進むしか出来ない。…しかもそういう所は何と言うか、蛇の背中を歩いている様な、勝手に地面が動いている様なで、直進しか出来ないんだよね。
「…王家の森の先にこんな所があったのか」
クジュラさんが呟いた。
「クジュラさんは、体調とか手の調子とか、どうですか?」
この直前の階で、私たちは彼の大切な人の命を奪った。ここに来る前にも聴いたけど、念の為にもう一度尋ねる。
「ああ、問題ない。…希羽は平気なのか?」
「私はワクワクの方が勝ります」
「…そうか」
「ちょっとそこ、イチャイチャしてないで行くわよ!敵だって強いんだから浮ついてんじゃないわよ!」
レナーテに檄を飛ばされ、気を引き締める。
今日の探索パーティーは、前衛にパイレーツのレナーテとクジュラさん、後衛にモンクのカスミとゾディアックのアネモネそして私という隊列だ。
目的は下階への階段を見つける事。
「敵が強すぎて、だいぶ難航してるんですよね~」
カスミが少しめんどくさそうに言った。
この階層の敵は体力お化けな上攻撃が通り辛く、さらに縛りや呪いといった面倒な状態異常をこれでもかと掛けてくる。
その為にモンクであるカスミと、相殺・解除系の技持ちである私が大活躍出来るのであった。
「このヌメヌメも本当に慣れない…」
アネモネも半泣きで靴裏を気にしている。
各々が暗い気分のまま進んでいく。
「ねえ、マッピング大丈夫?…ここ、多分1マス分少ないよ」
「ほんと?滑ってきた場所だから間違ったのかも」
マッピング用の方眼紙を見て、カスミが指摘した。
ふーむ、確かに壁一枚挟んだ向こう側の通路とマス目が合わない。こういったミスで重要な空間を見落としたりするから、マッピングは慎重にせねばならない。
一旦戻ろうかと提案しようとしたところに、毒々しい色をしたキノコのモンスターが2体現れた。
全員が臨戦体制を取る。
このキノコはHPが嫌に高いくせに防御力が低い。だから高火力で叩きたいところだけれど、…与えた分のダメージをそのまま返してくる呪いという状態異常を掛けてくるから厄介だ。
火力を出せるクジュラさんにひとまず状態異常を一度だけ予防する号令を掛ける。
レナーテが銃弾とステップで翻弄し、踊らされたキノコをクジュラさんが斬りつける。
その間に魔力を高めているアネモネにも、予防の号令を掛けると、
「燃えろ!」
アネモネが放った炎はあっという間にキノコを燃やし尽くした。
死ぬ間際にも呪いを振り撒かれたが、カスミが治療に当たってくれる。
…あ、そうだ。さっきのマッピング、今のうちにさっと確認しに行こうかな。
目印用の細長いロープを油床の始点あたりに結びつけて、持ったままもう一度滑って距離を割り出す。
「あ、本当に1マス少なかった。訂正して、と、…!?」
マップから顔を上げると、大きなカボチャ頭と目が合った。まずい、逃げなきゃと思うよりも速く足を蔦に取られてしまう!
「たっ、たすけて!!『防御』!!」
助けを求め、すぐに自分に防御の号令を掛ける。
もう1本の蔦が私の腹を鞭打った。
「ヒュッ…ぅ、げほっ」
カボチャ頭は悶絶する私を見て、けたたましい笑い声を上げた。
そこに、何発かの衝撃が…ひと足早く駆け付けてくれたレナーテの放った銃弾がヒットした。弛んだ蔦から、何とか逃げ出して転がる。
「バカァ!!何で1人で行くのよアンタはぁ!!」
「ぅ、レナーテ、ありがと」
「いいから!援護しなさい!!」
「『攻撃の号令』!」
攻撃のバフを乗せ、またもレナーテが数発の弾丸を放つ。
「『予防せよ』!」
何をやってくるかわからないので、一応予防の号令を掛けて、私も剣で応戦する。しめた、剣に塗ってある麻痺毒が効いた!!
今度は自分の剣に炎属性を付与して、蔦を斬り付ける。
そうこうしてるうちに、他の3人も駆け付けてくれた。
その3人に防御バフを掛けて、私は一旦後ろに下がる。
そして、目を瞠った。カボチャ頭の背後の木が動き出し、長い舌を何本も伸ばしてきたのだ。
「レナーテ、クジュラさん!!!」
2人の腕に絡みついた舌を、アネモネが占星術で凍らせる。解放された2人はどことなく辛そうな顔で、舌を叩き折った。
しかし後から後から舌が伸びてくる!タチの悪いことに、その舌に精神力を削られる感覚がした。
「わたしの魔力、啜ってる!」
アネモネが泣きながら、カボチャ頭と蛇の木へ連星術を当てる。しかし、カボチャ頭はともかく蛇の木の方にはあまり効果が無いみたいだ。
クジュラさんがカボチャ頭の頭を斬り落とし、叫んだ。
「撤退するぞ!」
クジュラさんをしんがりに、走る。途中、壁の様だった木々の合間に通れそうな裂け目を発見して通路の向こう側へ逃げると、目の前には樹海磁軸の光が立ち上っていた。
蛇の木は姿を消したようで、不安は残りつつも一旦休憩を取ることにした。