04.しのぶ者
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「どうしたの?…こんな暗いとこで」
「っ…」
今度は希羽が立っていた。こんな所までどうやって来たかは、もうどうでもいいや。希羽なら何となくでここまで来る。そういう奴だ。
みんな、話題の中心人物が来たことで気まずくなって口を噤む。けど、希羽には話した方が良いだろう。スミレへ視線を向けると、彼女も頷いた。
小さく深呼吸して、希羽に向き直る。
「希羽、…あなたに話があるの。私たち姉妹と、クジュラについて」
「え…?うん、何かな?」
明らかな不穏な空気で恋人の名前を出されたのにも関わらず、彼女は能天気に頬を染め、それを隠すように慌てて手を添えた。
可愛いやつ。さすがに呆れて笑ってしまう。
「待って、ここで話しても大丈夫なの?」
「こんな所来れるの、あなたとアネモネくらいだよ」
短く息を吐きながら、私たちの生い立ちやクジュラとの因縁を話す。
アネモネも、黙って聞いてくれた。
全てを話し終えると、いつになく真面目な顔をしている希羽が言った。
「…ひとつ疑問に思うことがあるんだけど」
「ん、なに?」
「…ごめんね、嫌なこと思い出させると思う。あの…襲撃された時って、あなたたちが子供の頃、だよね?具体的に何年前、かな」
「15年前だよ」
あの時、クジュラは大人で、大体30そこそこに見えた…けど。
あれ?じゃあ今、クジュラっていくつ?考えてゾッとする。40超えてる?いや、グートルーネ姫が不老だったことを鑑みるに、彼も?
しかしその質問の意外な答えを希羽は知っていた。
「クジュラさんって今22歳らしいの」
「…は?老け顔すぎる」
私の単刀直入な感想を聞いて希羽が噴き出した。肩を震わせて少し待ってと言うと、何度か深呼吸をして言葉を続けた。
「えっと、つまり彼は、15年前は子どもだと思う。もちろん彼は人間だから、ちゃんと平等に年を取った上であの…ふっ、ふふ、あのお顔で、あはは!あんなに可愛いのに…ひどい、ふふっ」
希羽はまだ私の老け顔発言を引きずって笑っている。好きなんじゃないんかい。
「ま、待ってよ。あの時のクジュラは確かに大人で、顔も同じで、…名前も」
「…そっか、名前」
「え?」
「お姉ちゃん、うちもそうだったよ。襲名したんだ」
「あっ…!?」
「父親とかだったんだ、今のクジュラさんの。たしかに、ある時から姿を見なかったよね」
そうだ、確かに…7年くらい前かな?そのくらいから全く姿を見なくって。
だから迷宮で初めて姿を見た時はこんな所にいたのかと嬉しかったものだけど。
じゃあさ、彼が仇じゃ無いんだったら。
「…じゃあ勘違いしてたの?」
「そ、そうみたい…お姉ちゃん」
スミレが泣きながら私の手を握った。
「じゃあ、私、希羽のお祝いしていいの?」
「酒盛りしよう、カスミ。わたしも、とことん付き合う」
アネモネがニヤッと笑いジョッキを煽る真似をする。お酒弱いくせに、付き合うなんて。なんだか嬉しくて、胸がいっぱいになる。
希羽の方を見て、自分の罪を告白する。
「私…いつかクジュラを殺すつもりで、あなたたちをくっ付けようとしてたのに」
「あは、カスミのおかげで付き合えたといっても過言ではないね」
希羽がVサインをチョキチョキとした。
それじゃあ縁を切ってるみたいだよと、ツッコミたかったけど言葉に出来なかった。
涙でみんなの顔が歪んだ。慌てて手の甲でそれを拭う。
「でも…希羽、私。里の仲間たちの無念はどうやって晴らせば良いのかを、いまだ考えてしまうの。どうすればいいか、わからない」
「そうだねぇ。じゃ、本当の仇は誰なのか、クジュラさんに聞いてみる?」
「聞いてみて、もしあの時の『クジュラ』が死んでいて、大切な人が居るというなら、私はその人を『クジュラ』の代わりに殺すかもしれない」
あの時のクジュラがしたように、アイツの大切な人も全員殺してやりたくなるかもしれない。体が震えてきた。いろんな感情が、心を黒く染めていく。
「そっか。…私は、その『クジュラ』さんに復讐することは止めないけれど、他の誰かを代わりに殺すっていうのは反対かな。カスミがさらに別の誰かの恨みを買って、いつ復讐されるかもわからないってのは嫌だし」
「わたしたち、もうクジュラさんに恨まれてる」
アネモネがすばやく提言すると、希羽は気まずそうに苦笑いした。
「そうだった。私が巻き込んだからややこしくなってるね」
「…わかった。とにかく、クジュラに話を聞きに行く」
「うん。行こう。…カスミ、何があっても私はあなたの味方だよ。スミレも、ついでにアネモネもね」
「クジュラにも言ってるくせに」
何かあるとすれば、私とクジュラが対峙することだ。わかっていないのかと思って釘を刺すと、希羽は肩をすくめて目を細めた。
「あなたと敵対するのがクジュラさんなら、私はまたクジュラさんを傷付けることになるね」
「そうさせたくないから私だって迷ってるのに」
「ふふ、ごめん、ありがとう。カスミなら大丈夫だって信じてるし、クジュラさんも、きっとカスミの味方をしてくれるよ」